2018年10月11日 公開
2021年08月23日 更新
たとえば、「コスト削減のため原価を下げたいが、売値は下げたくない。ファッション性も犠牲にしたくない」という議論がある。当然私は、ファッションの良し悪しは何もいえない。しかし、ジャケットの胸にポケットをつけたいというデザイナーに、「ジャケットにポケットをつけるのに10〜30円かかるが、売れ行きはどう変わる?」と、問いかけることはできる。
あるいは、「スカートのプリーツ加工を全面にするか、前だけにするか、後ろだけにするか、それで上代が1000円から1500円も変わる。お客さまは本当に、全面プリーツでないと買わないだろうか?」と、そんなことを指摘する。デザイン的な観点からいえば、ポケットもプリーツも絶対にあったほうがいいという結論になるのだろう。それがファッション担当の目線だ。
しかし私は、経済合理性の観点から口を出す。コストを下げてなお、売れ行きが変わらないなら、合理性あり、ということになる。結果、私がいた当時は、上代100に対し34%だった原価率を、17%まで下げることに成功した。
クレッジの主力ブランド「リップサービス(以下リップ)」を手がけるデザイナーが「そのデザインではリップらしくない」「それじゃ可愛くない」と反論してきたことがある。気持ちは痛いほどわかるが、私はさらに反論した。
「おれもあなたも凡人だ。アルマーニやラルフローレンのような超一流では到底ない。無から有を作ることなどそうそうできない。だったら、まずは売りたいものを作るんじゃなくて、売れるものを作ろうよ」
じゃあ売れるものってどういうものですか、と食い下がるデザイナー。「この週末、他のブランドを回って、109で一番売れたものを集めてきなさい。それが今売れるものです。それをリップっぽくアレンジできるのは、君たちしかいない」。これで売れるものができるし、ブランド独自のテイストでも差別化できる。
専門性の高い部分にはまったく口を出さなくても、プロ経営者にやれる仕事は、いくらでもある、ということだ。だから、メガネスーパーの再生の依頼を受けたときも、まったくメガネのことを知らなくても引き受けることができた。
その後のV字回復は社員たちの粉骨砕身の努力の結果に他ならないが、門外漢であることを恐れず強みとしてきたことで、今こうして刺激的な体験を社員の皆とできているのは間違いない。
更新:11月25日 00:05