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TBM「世界的なプラスチック問題の高まりは、LIMEXが貢献できる大きなチャンス」

2018年10月07日 公開
2022年10月25日 更新

【経営トップに聞く】山﨑敦義(TBM CEO)

【連載 経営トップに聞く】第7回 〔株〕TBM代表取締役CEO 山﨑敦義

山﨑敦義

 

 世界中で消費されている紙やプラスチック。その生産のため、日々、貴重な資源が大量に失われている。また、プラスチックによる海洋汚染に対する関心が、近年、急速に高まっている。地球の環境を守るため、紙やプラスチックに代わる、サステナブル(持続可能)な素材が求められているのだ。
 そこで期待されているのが、ベンチャー企業・〔株〕TBMが開発した『LIMEX(ライメックス)』という新素材。創業社長の山﨑敦義氏に、その開発の経緯と今後の展望を聞いた。

 

エコロジーとエコノミーを両立する新素材との出会い

 ――まず、LIMEXとはどういうものなのか、お教えください。

山﨑 石灰石を主原料とした、紙やプラスチックの代替品となる新素材です。今お渡しした名刺もLIMEXでできています。

 通常の紙は、1トン作るのに、木を約20本切る必要がありますし、約100トンの水を使用します。また、プラスチックは石油から作られます。一方、LIMEXを作るのに、木は使用せず、水もほぼ使用しません。また、石灰石は地球上にほぼ無尽蔵にあって、資源のない日本でも100%自給できるため、非常に安価な素材です。エコロジーとエコノミーを両立した素材なのです。

 それに、水資源の乏しい国では紙を作れませんが、LIMEXなら、その国にある石灰石を使って、安価に作れます。2050年には世界の人口の4割が深刻な水不足に直面すると予測されている中、大いに活躍できる素材だと思います。

 LIMEXという名前は、limestone(石灰石の英語名)にXをつけたもので、野田一夫先生(経営学者)に命名していただきました。Xは、色々なものに化ける無限の可能性があるという意味で、紙やプラスチックの代替品として、様々な用途を開発しています。

 

山﨑敦義
LIMEXを使った製品の例。他にも、ポスターやバックライトパネルなど、様々な用途に使われている。名刺に使っている企業は2千数百社あるとのこと。右端の2個の石が、LIMEXの主原料である石灰石

 

 ――石灰石だけでできているのですか?

山﨑 いいえ。石灰石に石油由来のポリオレフィンという樹脂を少量混ぜて製造していますが、この樹脂をトウモロコシなどの植物から作るPLA(ポリ乳酸)に変更した、100%自然由来、100%生分解のLIMEXも新たに開発しているところです。

 ――石灰石自体は、昔から利用されてきた資源ですね。

山﨑 主に、セメントの原材料として使われています。

 石灰石から紙の代替となる「ストーンペーパー」を作ったのは台湾の企業で、私は10年ほど前にそれに出会い、輸入して日本で販売していました。当時、日本でもエコがブームになり始めていたので、様々な大企業に興味を持っていただくことができ、『プリウス』のノベルティのメモ帳や、エコに関する大きな野外イベントのマップ、大手保険会社が顧客に配るクリアファイルなどに使っていただきました。

 ただ、台湾のストーンペーパーは、紙に比べると、重くて、高くて、品質も悪かったので、1回きりの発注で終わることが多かった。「世界にとって意義ある商品なので、もっと軽くて、安くて、品質も安定すれば、継続的に採用したい」と各社からおっしゃっていただいたので、メーカーに品質改良を要望したのですが、メーカーはそれに応えようとしませんでした。

「このままでは、ニッチな商品としてしか使われない。エコをコンセプトにしているのに、世界中で当たり前に使われる存在にならなければ、エコに貢献することはできない」と思い、自分たちで素材開発に取り組むことにしたのが、2010年です。

 ――ご経歴を拝見すると、20歳のときに中古車販売会社を起業されるなど、まったく別の業界で仕事をされてきています。開発に必要な技術は持っていなかったのでは?

山﨑 そうですね。そこで、日本製紙〔株〕で技術畑を歩んできて、今は当社の会長を務めている角(祐一郎)に合流してもらって、彼を中心に技術者や研究機関を巻き込んでいき、LIMEXを開発しました。

 角と知り合ったのは、知人の経営者の紹介です。僕が台湾のメーカーとのやり取りで苦しんでいることを知って、「紙の神様みたいな人がいる」と教えてくれたのです。角は、製紙工場が大量の水を使うことに対して問題意識を持っていたそうで、ストーンペーパーの開発に意義を感じてもらえました。

 資金については、できるかできないかわからないのに出資していただくわけにはいかないので、最初の試作品ができるまでは、それまでにやってきた事業で作った資金で賄いました。

 ――LIMEX以外の事業は畳んだのですか?

山﨑 いくつか他の事業をやりながらLIMEXの事業もするほうが、経営も安定するし、精神衛生的にもラクなのですが、集中しないとやり遂げられない大きなチャレンジですから、支援していただく方との約束事として、退路を断ちました。そのおかげで、今があると思っています。

 ――それまでとまったく違う事業を始めるということに対する躊躇はなかったのでしょうか?

山﨑 技術なら技術、知財なら知財、ファイナンスならファイナンスと、それぞれの分野のスペシャリストが必要な事業ですから、僕がそれらすべてに精通することなんて、そもそも不可能ですよね。どんな企業でも、特に大きくなればなるほど、その企業が必要としているすべての分野に精通している人なんていないでしょう。

 大事なのは、同じ志を持つ各分野のスペシャリストが一緒になってくれることです。そして、一緒にやろうと思ってもらうためには、僕たちが熱く挑戦している姿を見てもらうこと。そう信じて突き進むしかないと思います。

 

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立ちはだかった資金調達の壁をいかに越えたか >

著者紹介

山﨑敦義(やまさき・のぶよし)

〔株〕TBM代表取締役CEO

1973年、大阪府生まれ。20歳で中古車販売業を起業後、複数の事業立ち上げる。30代になり、グローバルで勝負ができて100年後も継承される、人類の幸せに貢献できる1兆円事業を興したいと奮起。時代の架け橋となる〔株〕TBMを立ち上げる。Japan Venture Awards 2016「東日本大震災復興賞」受賞。Plug and Play 2016「世の中に最も社会的影響を与える企業―ソーシャルインパクトアワード」受賞。17年、スタンフォード大学にて日米イノベーションアワード受賞。日経スペシャル『カンブリア宮殿』10周年500回記念番組に登場。

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