2018年09月21日 公開
2023年03月14日 更新
これで育つ現場スタッフが、いったいどれだけいるでしょうか。
しかし、介護業界では長年、それがまかり通ってきました。それでも何とか人材が育っていたのです。
それが今は通用しなくなっています。制度上、求められる水準が高くなったことに加え、お客様の要求することも難しくなっています。
また、介護の仕事が一般化したこともあり、「介護職で食べていくぞ!」と気負って職選びをする人も少なくなりました。「やってみようかな」くらいの気持ちで、選ばれる仕事です。
“背中教育”でうまくいくのは、成長意欲や問題意識が高く、修業に耐えられる人材だけです。そういった人たちであっても、体系立ったプログラムのほうが、きっと早く育つでしょう。背中教育はやめて、教育体系づくりを進めなければいけません。
このことを気づかせてくれる事例が、他業種にあります。
みなさんは「リエゾンプロジェクト」というのを、ご存じですか?
パン職人の独立開業を支援する学校のようなものですが、ここの河上祐隆代表は、とても面白い取り組みをしています。
なんと、たった5日間で、売れるプロのパン職人を育てるというのです。
今、パン屋さんはいたるところにあります。スーパーの中にも、美味しい焼き立てのパンを出すお店があります。パンで独立開業して繁盛するには、並大抵の努力ではすまないと容易に想像できます。それをたった5日でやってのけるというのです。
それでは、従来のパン職人の修業と比較してみましょう。
わかりますよね。「従来のパン職人」が“背中で教える施設長”です。
もしかしたらこの方法で、どこに出しても恥ずかしくない、うまくいけばコンテストで入賞するようなパン職人を育てられるかもしれません。
では、今の介護現場で必要なのは、賞を取るような人材でしょうか。違うはずです。
今、介護業界に必要なのは、ひと通りの仕事を独力で安全にこなせるスタッフを、できるだけ短期間で育てる指導術ではないでしょうか。スタープレイヤーもほしいですが、まずは最低限のことを1人でこなせるスタッフを揃えることが優先です。
そのためには、リエゾンプロジェクトのような指導法を私たちも工夫してつくらないといけないのです。
しかし、いまだに“背中教育”などをしているため、いつまでも新人が育ちません。一緒に働く先輩スタッフは、それをイライラしながら見守ります。新人は新人で、自分が現場の“お荷物”になっていることを実感し、「私はこの仕事に合っていないんじゃないか……」などと不安になって、辞めていくのです。
これが、私が“背中施設長”が業界発展の邪魔をしていると、手厳しく言う理由です。まだそういった教育法を行っているようであれば、すぐにでも改めるべきです。
役職者になるより現場のほうが、ずっとずっと気楽だ──。
これが、介護現場で働く多くの方の本音ではないかと思います。
役職者に任命されると急に、経験がなく、方法もわからず、やれる自信もない仕事を任されるようになります。それに、いざ取り組もうとすると、日中は現場のあちらこちらから呼ばれて翻弄され、やっと集中できると思ったら退勤時間をとっくに過ぎている。
やがて残業が常態化し、休みの日でも現場が気になって仕方がなくなり、家族からは「仕事のほうが大切なの?」と責められる日々……。
これでは、部下、後輩のスタッフたちが「出世したくない」と言うのも納得できます。私だって、そんな上司を見ていたら、同じ気持ちになるかもしれません。
しかし私は、これらの不安や不満の多くは、施設長、役職者として現場を率いる方法論を身につければ、解消できるものだと思っています。
そこで、拙著『「介護施設長&リーダー」の教科書』では、エモーショナルな内容、表現をできるだけ避け、明日から実践できる具体的な方法を伝えることに専念しました。
私が出会う施設長の中には、「本当に施設長をやらせてもらってよかった」「リーダーになったら、仕事が楽しい」と語る方がたくさんいます。みなさんにも、そんなふうに感じてほしい。それが私の願いです。
糠谷和弘(ぬかや・かずひろ)
株式会社スターコンサルティンググループ代表取締役。経営コンサルタント。1971年生まれ、東京都出身。介護保険施行当初から活躍する介護経営コンサルタントの草分け的存在。実績は400社を超え“日本一”と呼ばれる事例を多数つくってきた。現場指導のかたわら年間50本以上の講演もこなす。厚労省等の調査研究事業で委員も務めており、それらの活動はテレビ、新聞、雑誌、ラジオなどにも多数取り上げられている。
更新:11月25日 00:05