2018年06月25日 公開
2023年07月31日 更新
「AIが仕事を奪う」という悲観論に対し、「いや、AI失業は決して怖くない」という「楽観論」もまた、世の中には数多く出回っている。その根拠となっているのが「AIは決して、人間の能力に追いつくことができない」という見解だ。一見、耳に心地の良いこの楽観論。はたしてどちらを信じるべきなのか。著書『「AI失業」前夜』にて、近未来のAIと人間との関係を描いた鈴木貴博氏に聞いた。
私は人工知能による仕事消滅の影響がこれから大きな社会問題になると考えている論者だ。深層学習能力を人工知能が手に入れたことで、これから先、社会のさまざまな分野で「いらなくなる仕事」が大量に出現すると警鐘を鳴らしている。
ところが、当然のことではあるが、世の中には反対の意見の論者も多く存在する。
究極的にはこれから起きる未来の技術進化に関わる議論なので、その意見が分かれるのは仕方がないことなのだが、とはいえそのことでこの問題の重要度が過小評価されてしまうのは困る。そこで「AI失業は怖くない」という議論の落とし穴について、今回は指摘させていただきたい。
「人工知能が人間のような知能を獲得することは起きない。だから人間の素晴らしさを信じてスキルアップに努めるべきだ」
こういった意見がキャリアアドバイザーや社会学者の間で提起されている。彼らの意見の最大の論拠になっているのは、人工知能を使って東大入試に合格できるかどうかを検証した、実在のプロジェクトの結果である。
最先端の技術力を持つ人工知能学者が実際にその成否を確認してみた。その結果、現在の技術の延長では、人工知能には東大入試に合格できるような能力は決して獲得できないことがはっきりしたというのである。
実は、この研究結果は私も知っていて、その意見の正しさも理解している。非常に正しいことをおっしゃっているというのがこの研究者の主張である。
問題は、それ以外の周囲の方がこの研究結果を誤解しているようなのだ。この結果を鵜呑みにして、「人工知能は未来永劫、人類のような知能は獲得できない」と考えてしまうと、将来に関して二つの大きな落とし穴に落ちてしまう。それぞれ解説してみよう。
更新:11月22日 00:05