2018年06月13日 公開
2023年07月31日 更新
私は55歳の経営戦略コンサルタントであり、経済評論家だが、その私は今、若い頃とは比較にならないほど高い生産性で働いている。たとえば経済評論家としての連載で3000字程度の記事を月16本書いている。これは以前であれば専業作家の執筆ペースである。
ところが私は経済評論家としてのパワードスーツを身につけているので、経営コンサルタントの忙しい仕事の合間に、すらすらと経済記事を仕上げてしまう。そのパワードスーツとはスマホである。
さまざまな編集部から「東芝問題の見通しについて書いてください」「神戸製鋼の問題はなぜ起きたんですか」「ユニクロの今期の業績はどうなりますか」「今勢いのあるベンチャー企業を紹介してください」といった執筆依頼が次々くる。概要は知っていても細部を知らなければ記事は書けない。
だから2005年ぐらいの時期であれば月5本、専門記事を書いたらそこで手一杯だった。ところが今はスマホがある。ついさっきも出先で携帯に電話が入って「AbemaTVのビジネスモデルについて解説して欲しいんですけど」と依頼が入った。それで電車の移動中にスマホで関連記事をざっと30分も読めば、たとえそれまで知らないことであっても十分な知識が頭に入る。この段階でよく知っている他のメディアのビジネスモデルと対比した記事を書きあげるプロットが瞬時に頭の中で組み上がるというわけだ。
後は質問を業界関係者数人にメールしておくと、夜には返事が戻ってくる。取材はそれで完了だ。
記事を書くという仕事は情報を集め、それをどう組み上げるかを構想するまでが大変で、書き上げる時間はパソコンに向かって1時間もあれば十分だ。スマホというパワードスーツを得た私は、この前段階の作業を移動中のJRの車内の隙間時間でほぼ終えてしまっている。
さて月16本、2日に1本のペースで執筆をこなせるようになったからさぞかし収入が増えたかというと実はそうではない。原稿料が各社とも大幅に下がっているのだ。
2005年に副業として月5本のコラムをこなしていた当時は、3000字のネットコラムの原稿料が1本4万円だった。さらに10年前の1995年頃、当時はウェブがなく寄稿は雑誌ばかりだったが、3ページくらいの記事を寄稿すると、10万円の原稿料がもらえたものだ。
さすがに16本書くと月5本の頃よりは若干ではあるが売上げは多い。しかし「かっぱ寿司の食べ放題について書いてください」「格安スマホを普通の携帯と比較してください」など取材の際の経費の持ち出しを考慮すると、以前よりも儲かっている感じはまったくしない。
なぜ、こんなことが起きるのか?
理由はパワードスーツを身につけて仕事をしているのは私だけでなく、周囲の全員がそうだということだ。
今、メディアの世界では記事の数がかつてないほど増加している。経済記事のライターの人数も増え、一つの記事が読まれる期間は集中して1日の中の十数時間にまで短くなっている。
以前、DeNAなどのIT企業がキュレーションメディアという新しいメディアを立ち上げて社会問題になった。ネット上の記事を集めて「まとめ記事」というものを書かせる。質はともかく、それをやられると専門家でないライターがいかにも専門的な記事を書けてしまう。ライターに支払われる原稿料は3000円。われわれ専門家はその価格の記事と比較して「どれだけPV数を集められるか?」で原稿料水準が設定される時代になってきた。
更新:11月22日 00:05