2018年06月19日 公開
2023年07月31日 更新
これから先の時代、人工知能とロボットによって人間の仕事が奪われる『仕事消滅』が本格的な社会問題となる。だが、このドラスティックな変化が始まったのは、つい数年前のことだったという。そのターニングポイントこそが2011~2012年。そのとき、何が起こったのか。著書『「AI失業」前夜』にて仕事の未来を解き明かした鈴木氏にうかがった。
人間の脳についてはいまだにわかっていないことも多い。とはいえ「意識はどこで生まれているのか?」とか「思考や記憶のメカニズムはどうなっているのか?」といった脳の根本的な構造については、医学的な解明がかなり進んできている。
人工知能が人類全体の頭脳を凌駕する日をシンギュラリティ(特異点)と名付けたレイ・カーツワイルの著書によれば、これまでも医学者はいろいろな形で人間の脳の計算能力を推論してきたという。
たとえば、網膜が目から入ってくる画像情報を処理する速度から見積もると、脳全体は処理能力として1秒間に10の14乗の桁の計算能力を持っていると考えられるそうだ。他の研究では、小脳の構造を全体に敷衍すると10の15乗の桁の計算が行なわれているという推定もされている。
カーツワイルはこれらの議論はまだ初期段階だからという理由で、人間の脳の性能をさらに保守的に見積もって、1秒間に10の16乗の計算能力を持つものだと想定した。
さて、日本が誇るスーパーコンピュータである「京」をご存知だろうか。政府の行政刷新会議の事業仕分けの際に「1位じゃないとダメなんですか?」と詰め寄られ、110億円の経費が削減されたスーパーコンピュータである。プロジェクトの先行きが危ぶまれたが、関係者の頑張りにより2011年にみごとスーパーコンピュータの処理速度で世界1位の座を獲得した。
「京」は「けい」と読む。これは数の単位で、万、億、兆のもう一つ上である。「京」の名前の由来は1秒間に1京回の計算処理を行なうことができるスーパーコンピュータという意味であり、実際に「京」はこの目標を世界で最初に達成した。
そして、おわかりいただけただろうか。1秒間に1京回というのは、10の16乗回を意味している。つまりスーパーコンピュータ「京」は歴史上初めて、人間の脳の処理能力と同等の処理能力を獲得したコンピュータなのである。
ハードウェア性能が人間の脳に追いついた翌年に、もう一つの技術革新が起きた。2012年、グーグルが世界で初めて「自分で学習して猫を認識する人工知能」を開発したのである。
それまでの人工知能はあらかじめ「猫とはどのような特徴を持った存在か」を人間が定義しておかなければ、写真に写っている動物が猫か猫ではないかを判断できなかった。そうではなく、グーグルはYouTubeから1000万枚の画像を取り出して「これは猫」「これは猫ではない」という情報だけを与えて、人工知能に猫を独力で見分けさせることに成功した。これがディープラーニング(深層学習)という新技術であり、人工知能の開発の世界では50年来のブレークスルーと呼ばれる偉業だった。
現在の人工知能ブームの基礎となる発明・発見はこの二つの年に起きたということになる。つまり2011年にハードウェアが、2012年にソフトウェアが、人間の脳の能力に手が届き始めたわけだ。
更新:11月24日 00:05