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今さら聞けない「フェルミ推定」。本当の意味とは?

2018年06月12日 公開
2023年03月14日 更新

永野裕之(永野数学塾塾長)

「だいたいの値」を見積もる達人だったフェルミ

フェルミ推定の名前の由来になったのは、「原子力の父」として知られるアメリカのノーベル賞物理学者エンリコ・フェルミ(1901-1954)です。

理論物理学者としても実験物理学者としても目覚ましい業績を残したフェルミは、「だいたいの値」を見積もる達人でもありました。初期の原爆実験の最中、衝撃波が通り過ぎる際、小さな紙切れを数枚落とし、爆風に舞う紙切れの軌道から爆風の強さを概算で弾き出したこともあったとか。

彼がシカゴ大学で行った講義の中で学生に出した「シカゴにはピアノ調律師が何人いるか?」という問題は大変有名です。

 

理系学生にとっては元々、必須の能力

私が学生だった頃、フェルミ推定という言葉はありませんでしたが、 理系学生にとっては、実験を行うに際し最初に「およそこれくらいの値になるだろう」という予測を立てる能力は必須でした。なぜならその予測に基づいて実験に必要な精度を考えるからです。

また予想した「だいたいの値」とケタ違いの値が結果としてられた場合には、「あり得ない=実験方法に不備があった」と判断できたり、あるいは仮説の段階では思いもつかなかった真実の発見につながったりしました。これが有益であることは言うまでもありません。

フェルミが物理学科の学生に対してシカゴのピアノ調律師の人数を問いかけたのは、物理の世界で生きていくのならこのような推定ができる能力は非常に重要である、というメッセージだったのでしょう。

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著者紹介

永野裕之(ながの・ひろゆき)

「永野数学塾」塾長

1974年、東京生まれ。暁星高等学校を経て東京大学理学部地球惑星物理学科卒。同大学院宇宙科学研究所(現JAXA)中退。レストラン経営、ウィーン国立音大への留学を経て、現在は個別指導塾・永野数学塾(大人の数学塾)の塾長を務める。これまでにNHK、日本経済新聞、プレジデント、プレジデントファミリー他、テレビ・ビジネス誌などから多数の取材を受け、週刊東洋経済では「数学に強い塾」として全国3校掲載の1つに選ばれた。プロの指揮者でもある(元東邦音楽大学講師)。著書に『東大教授の父が教えてくれた頭がよくなる勉強法』『数に強くなる本』(PHPエディターズ・グループ)、『大人のための数学勉強法』(ダイヤモンド社)など多数。

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