2018年05月28日 公開
2023年03月14日 更新
私は以前、数学塾の塾長と指揮者の卵という二足のわらじを履いていました。その頃、誰よりもお世話になったのは現在ベトナム国立交響楽団(VNSO)の音楽監督兼首席指揮者でいらっしゃる本名徹次さんです。その本名さんが先日「ベトナムのオーケストラと恋に落ちた日本人指揮者の16年間」と題されたYahoo!ニュースの特集で取り上げられました。
ベトナムのオーケストラと恋に落ちた日本人指揮者の16年間
https://news.yahoo.co.jp/feature/770
記事は本名さんがどれほどこのオーケストラのために尽力され、深い愛情でVNSOを育ててきたかを丁寧な筆致で綴ったものでしたが、その中に本名さんが音楽監督として得ている収入は月給400ドルだという記述がありました。
本名さんは、東京国際音楽コンクール最高位、ブダペスト国際指揮者コンクール第1位等の輝かしいコンクール歴を誇り、日本国内の主要オーケストラのほか、ヨーロッパの名門オーケストラにもたびたび客演されています。
その本名さんの月給が400ドルなんてあまりに安すぎるのは間違いありません。しかし、400ドルという数字を単純に「400ドル≒4万5000円」と日本円に換算して、日本国内の物価や賃金で測っていいものでしょうか? 気になった私は、ベトナムの経済事情を少し調べてみました。
日本貿易振興機構(ジェトロ)が発表している投資コスト比較によると、VNSOが本拠を置くハノイの法定最低賃金は月給169ドル。また製造業のエンジニア(中堅技術者)の月給は424ドルとあります。
もちろん、国際的なキャリアを誇る本名さんが月給400ドルで音楽監督を引き受けていらっしゃることは、本名さんご自身の音楽と人間に対する深い愛情があるからこそ、そしてベトナムのオーケストラの音と人間に惚れ込み、報酬や待遇に関係なく楽団員を家族のように愛されているからこそ実現しているわけです。そんな本名さんには尊敬の念しかありません。
ただ一方で、ベトナム国内の賃金についての知識を得れば、400ドルという数字の意味を立体的に捉えることができるようになるのもまた事実です。
数字に限らず、人は意味のわからないものは嫌いです。逆に意味のわかるものには自然と興味を惹かれるものでしょう。数字アレルギーの人が数字を嫌うのは、そもそも数字の意味がわからないからではないでしょうか?
知識は焚き火に似ていると私は常々思っています。
キャンプファイヤーをやるとき、最初の火を起こすのは少々骨が折れますが、一度火がついてしまえばその火を大きくしていくのはそう難しいことではありません。数字の知識も同じです。いろいろな分野について「火種」になり得る基本の数字を知識として持っていれば、数字の知識がどんどん広がります。そうなれば数字に興味を持つことができて、数字が言葉よりも雄弁に語りかけてくるメッセージを受け取れるようになります。
もちろん、そうした数字の知識は数字を比べようとする際にも欠かせません。
「数に強い人」は、自分の専門分野はもちろん、専門外のさまざまな分野についても基本となる数字の意味を知っているものです。
(出典:『東大→JAXA→人気数学塾塾長が書いた数に強くなる本』)
更新:11月25日 00:05