2018年05月23日 公開
2023年03月16日 更新
さて、このフィルターで眺めてみると、『道をひらく』をはじめとした松下幸之助の一連の著作は、「器を大きくする」系の本ということになります。『道をひらく』を読んだ翌日に、仕事で作成する資料が急にわかりやすくなったり、いきなり会議の進行が改善できたりするわけではありません。こういう本は折に触れて何度も読み返す中で、漢方薬のようにじわりじわりとその哲学や世界観を染み込ませていく。そんな読書スタイルを基本としている方が大半だと思います。
ただ、本当にそうしたスタンスで、偉大な先人達の思考回路を自身にインストールすることができるのでしょうか。日々の仕事に活かすことができるのでしょうか。「折に触れて読み返す」と書きましたが、大半の読者は、1回読んで満足したらあとは本棚で眠らせているだけ……。これが実態だと思うのですが、いかがでしょうか。
耳の痛い話を書いてしまいましたが、こうした課題を改善する方法はあります。
読み方自体を、根本から変えればいいのです。スキル系の書籍を読むときと同じようなスタンスで、こうした器系の著作にもアタックしていく。その際、重要となってくるキーワードが「動作化」です。
試しに1つ、松下幸之助の名言を紹介しましょう。以下を読んでみてください。
ひろい世間である。長い人生である。その世間、その人生には、困難なこと、難儀なこと、苦しいこと、つらいこと、いろいろとある。程度の差こそあれだれにでもある。自分だけではない。
そんなときに、どう考えるか、どう処置するか、それによって、その人の幸不幸、飛躍か後退かがきまるといえる。困ったことだ、どうしよう、どうしようもない、そう考え出せば、心が次第にせまくなり、せっかくの出る知恵も出なくなる。今まで楽々と考えておったことでも、それがなかなか思いつかなくなってくるのである。とどのつまりは、原因も責任もすべて他に転嫁して、不満で心が暗くなり、不平でわが身を傷つける。
断じて行なえば、鬼神でもこれを避けるという。困難を困難とせず、思いを新たに、決意をかたく歩めば、困難がかえって飛躍の土台石となるのである。要は考え方である。決意である。困っても困らないことである。
人間の心というものは、孫悟空の如意棒のように、まことに伸縮自在である。その自在な心で、困難なときにこそ、かえってみずからの夢を開拓するという力強い道を歩みたい。
『道をひらく』
この名言は、「困っても困らない」という松下幸之助の有名なフレーズです。その意味を超訳してしまえば、要するに「どんな時もポジティブフォーカスで捉えよう」ということなのですが、以降を読みながらぜひ考えてほしいことがあります。
たとえば、あなたと同じ職場で働く部下が、この名言に触れて「よし、自分もこれからもっとポジティブ思考になるぞ」と決意したとしましょう。翌日、あなたは部下からこんな相談を受けることになりました。「ポジティブフォーカスの重要性はわかったのですが、すいません、1つだけ教えてください。いったいどうすれば、ポジティブ思考になれるのでしょうか?」と。あなただったら、部下にどう実践的なアドバイスをしますか。ひとしきり考えてから、以降を読み進めていってください。
さて、いかがだったでしょうか。「そんなこと言われても……」とお手上げだった方。あるいは、「人に聞かずに自分で考えろ!」という具合に思考を放棄し、反射的に相手に丸投げしたくなった人もいるかもしれません。もし少しでも思い当たるところがあったのであれば、ぜひ以下の事実と向き合ってください。
あなたは名言や金言に触れても、それを実践できてはいないのではないでしょうか。残念ながら、今のままでは実際に器を広げていくことは難しいと言わざるを得ません。
更新:11月14日 00:05