2018年05月05日 公開
2022年06月09日 更新
アマゾンを代表格とするネット通販の拡大を主因として荷物取扱量が急増、ドライバーの労働環境が悪化しているとして、ヤマト運輸が当日配送の見直しや料金の引上げを発表しました。これを契機として日本のメディアでは、宅配業界で起こっていた問題を「宅配危機」と名づけて、同業界での動きや2社間の交渉状況を特集してきました。
2016年までの5年間で8割増もの勢いで売上を伸ばしてきた日本のECは、その大半の宅配業務を宅配業界に大きく依存してきました。その一方で宅配業界は、ヤマト運輸、佐川急便、日本郵便の大手3社で9割以上ものシェアを握っている寡占状態のマーケットであることも、この「危機」の根深い背景になっています。
そしてさらには「宅配危機」には、下の図で示されている通り、現在の日本のさまざまな政治的・経済的・社会的・技術的問題が凝縮されているのです。まさに「日本で起きていること」がアマゾンを通して鳥瞰できる水準にまで、同社の影響力が増大しているのです。
それではまずは、「宅配危機」に影響を与えている要因を考察したうえで、それらの要因がどのようにヤマト運輸とアマゾンの戦略に影響を与えてきたのか、そしてアマゾンはこれから宅配戦略をどのように描いていくのかを分析していきたいと思います。
経営学においては、「PEST分析」という変化を読み解くフレームワークがあります。政治的・経済的・社会的・技術的要因のそれぞれが、国・産業・企業・人のそれぞれにどのような変化をもたらしているのかを分析するツールです。
宅配危機に影響を与えている政治的要因としては、アベノミクス、1億総活躍社会、働き方改革などの施策が挙げられるでしょう。とくに安倍政権が目玉としてきた働き方改革の影響もあり、長時間の残業、残業代の未払い、過酷な労働環境などが社会問題化したことは重要な事実です。
経済的要因としては、構造的な人手不足により有効求人倍率が上昇していること、それが賃金の上昇にもようやく結びついてきたことが大きな項目です。安倍政権の「アベノミクス」による各種経済政策も、当然に経済的要因です。
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更新:12月04日 00:05