2018年03月02日 公開
インドに住む13億人に12ケタのID番号を割り当てるインド版マイナンバー「アーダール(Aadhaar)」は、登録開始からわずか5年半で加入者が10億人を突破(2018年1月末時点では約12億人にまで増加)。10本の手の指紋と目の虹彩の情報を登録することで、カードや暗証番号なしに個人認証ができる。写真:Marco Saroldi /Shutterstock.com
日本では、こうした激変するインド、ましてインドIT業界のことはほとんど知られていない。日本企業はインド市場でのビジネスには興味があっても、インドIT業界に関しては、低価格なオフショア先という程度の認識しかない。ITと言えば、アメリカのシリコンバレーには注目しているが、インドにはまったく興味を持っていない。
一方、シリコンバレーのIT企業をはじめとする世界のトップ企業はもちろん、中国、韓国企業もバンガロールに開発拠点を設置し、規模を拡大してグローバル戦略の拠点としての活用を加速している。社内のキー人材を送り込み、他社よりも早くインドから世界的イノベーションを生み出そうと必死で戦っている。つまり、冒頭で述べた「インド・シフト」を真剣に進めているのだ。
バンガロールにいて、IT業界の人たちと日々の交流をしていれば、自ずと世界最先端のITトレンドが見えてくる。
たとえば、私がバンガロールに着任した当時は、アンドロイド搭載のスマートフォンが登場し始めたばかりだった。しかし、バンガロールにいると、すぐにアンドロイドが主流になることがわかった。あちこちでアンドロイド関連の開発が行われていたからだ。
また日本では2017年あたりから、仮想通貨の基礎技術であるブロックチェーンが注目されるようになったが、バンガロールでは数年前からすでにいくつものプロジェクトが立ち上がっていた。最先端のITトレンドはシリコンバレーとバンガロールの双方でほぼ同時に共有され、そこから日本を含む先進国に伝わる、という時代になっているのだ。
ITの技術革新が急速に進む中、あらゆる業界はITとは無縁ではいられなくなっている。いや、ITを中心とした会社に変えていかなければ生き残れない時代になりつつあると言ったほうがいい。日本企業及び日本は、この問題に戦略的に動けているのであろうか?
私にはそうではないように思えて仕方がない。少なくとも世界とインドIT業界の連携の動きにはまったく気がついていない。
インドには、日本では感じられないエネルギーやエキサイトメントがみなぎり、想像以上のスピードで変化している。世界では急速な技術革新と、先進国から新興国へのビジネス・シフトが、まさに同時に起きようとしている。その中で「新興国にもかかわらず、IT先進国」という稀有な国であるインドでは、過去に例を見ないイノベーションが起き始めている。いや、起こそうとしている。
インドIT業界への興味や理解を深めること。それが日本企業のIT戦略、イノベーション戦略を決定するうえでますます重要になってくるだろう。
更新:11月23日 00:05