このように、マネジメントのあり方や求められる上司像が変化する中で、上司に求められるマネジメントスキルも変わってきていると言えます。しかし、今の管理職や中間管理職世代は、そのような上司に育てられているわけではないため、自分が教えられたように部下に接するとうまくいかないのが難しいところです。自分が部下だった時代とは違うことを認め、時代の変化を捉えて自分を変えていくことも、今の上司には求められていると言えます。
そこで今、求められるマネジメントスキルとその高め方について考えてみます。
まず、「わかりやすく伝える力」です。すでに述べたように、仕事の意味や背景を丁寧に伝えて本人のやる気を高める必要があるからです。今は、難解な解説書を自分で読み解いたり探究したりする機会が減っているなど、世の中全体がわかりやすさを求める傾向にあります。わかりやすさに慣れた若者にも理解できるよう、わかりやすく伝える力が求められているのです。
とはいえ、さらなる育成段階では、あえて自分で考えさせるマネジメントも大切です。これには時間と忍耐が要りますが、部下の成長のためには、いずれそうした関わり方も必要です。
もう一つ、今の時代だからこそ必要なマネジメントスキルを挙げるなら、「ほめる力」です。以前から言われてはいますが、ますます必要になっています。今の若者にとって、自分の存在が認められている安心感が仕事のモチベーションにつながります。ところが、当たり前のことをわざわざほめる必要はないと考える上司が多いようです。
ほめるのが苦手な人はまず、「承認する」ことを意識してみてください。「ほめる」と「承認する」の違いは、「ほめる」は主観を伝えることで、「承認する」は認めた事実を伝えることです。たとえば、「髪、切ったんだね。似合うよ」が「ほめる」で、「髪、切ったんだね」が「承認する」です。承認は客観的事実を伝えるだけですが、そこには「あなたのことを見ています」というメッセージが込められています。これが相手に安心感を与えます。
ほめる力を磨くには、「観察力」と「観察したことを伝える力」の両方を鍛える必要があります。まず、部下に意識的に目を向けて、仕事の進め方や会議での発言内容などのプロセスに着目して変化を観察します。そして、これが一番肝心なのですが、気づいたことを口に出して部下に伝えます。
とくに男性は、できて当たり前のことに対して「いいね」と口に出すことに抵抗がある人が多いようです。普段から「おいしい」「うれしい」のように、感情を口に出すトレーニングをしてみてはいかがでしょうか。慣れてくれば、自然に言えるようになります。
冒頭で、今は一人一人の状況や働き方、モチベーションに合わせたマネジメントが求められているとお話ししました。そのためにも、部下との一対一の対話の時間が不可欠です。
とはいえ今、多くの職場では、上司と部下が対話をする時間は減っている傾向にあると思います。いわゆる「飲みニケーション」の機会が減ったうえに、残業削減・業務時間短縮の影響から、普段の対話でも雑談をする余裕がなく、個人的なことを話す時間が物理的にも減っていると言えます。
そこでお勧めしたいのが、私が提唱している「1on1ミーティング(1on1)」です。従来の面接との一番の違いは、従来の面接が評価や指導を目的とする「上司のための時間」であったのに対し、1on1は部下の不安解消や、能力・キャリアを考える「部下のための時間」だということです。そのため、上司は部下に質問し、部下の話を聞くことに徹します。共感の姿勢で部下に安心感を与えることが、対話のスタートです。個の状態を把握し、信頼関係を構築してこそ、個の成長を支援することができます。
個を見るとは、つまり「人間を知ること」とも言い替えられます。働き方や価値観が多様化する中、マネジャーには多様性を理解する器を持つことが求められます。つまり、「人間力を磨く」ことがマネジャーにとって大きなテーマと言えます。
そのためには、仕事に励むだけでなく、遊んだり、本を読んだり、人と交流したり、さまざまな経験を積むことが大切です。人生を豊かに楽しむことで、人間力は磨かれます。これからのマネジャーは「仕事人間」では務まらなくなるということです。
《『THE21』2018年3月号より》
更新:11月25日 00:05