日本人の有給休暇の取得率の低さはしばしば話題になるが、休みを取りたくても多くの現場で「休めない」と言われているのはなぜなのだろうか。東レ時代に家族のために残業削減を断行し、同期トップで取締役に就任、働き方改革のスペシャリストとして知られる佐々木常夫氏にうかがった。(取材・構成=塚田有香、写真撮影=長谷川博一)
※本稿は、『THE21』2017年12月号特集「本当に疲れが取れる40代からの休息術」より、内容を一部抜粋・編集したものです。
長時間労働を解消し、生産性を高める「働き方改革」は、いまやどの企業にとっても急務となった。だが一方で、実際の現場では『定時に帰るのは難しい』『休暇がとりにくい』という声がいまだに圧倒的多数だ。
なぜここまで「休めない職場」が多いのか。東レ在籍中の課長時代から残業削減や業務の効率化を推進し、ハードワークが当たり前だった1980年代からワークライフバランスを実践してきた佐々木常夫氏は、その原因をこう言い切る。
「日本人が休めないのは、本気で『休みをとりたい』と思っていないからです。とくに中高年以上は、高度成長期の価値観をいまだに引きずり、長く働くことが美徳であると信じている。若い世代の意識は随分変わりましたが、頭の固い五十代以上の 『粘土層』が古い考え方を捨てない限り、会社全体を変えるのはなかなか難しいのが現実です。
職場を変えるために必要なのは、『制度より風土、風土より上司』です。いくら男性の育休制度を作っても、『男性社員も育児のために休むのは当たり前』という風土があり、それを部下に勧める上司がいなければ、誰も休もうとはしませんよ」
そもそも、なぜ本気で休みたいと思えないのと言えば、「仕事以外にやりたいことがないからだ」と佐々木氏は指摘する。
「日本のサラリーマンと話すと、『家に帰ってもやることがない』という人が多いことに驚かされます。これがドイツの会社なら、社員たちは朝7時半には出社し、全力で集中して働き、夕方四時には帰っていきます。そして毎晩家族と夕食を共にし、子供とキャッチボールしたり、家事や庭の手入れをしたりする。ドイツの人にとっては、それが当たり前なのです。
ところが日本人で、平日に家族と食事をする人がどれだけいるか。それどころか、『たまに早く家に帰ると、妻や子供に煙たがられる』という人までいる。でも、そういう家族にしてしまったのは、自分自身です。
仕事しかない人生を送ってきた人は、定年を迎えた瞬間に何もかも失います。その後に待っているのは、寂しい老後です。
私はそれが嫌だったから、管理職時代から毎日夕方6時に退社し、病気の妻の看病と3人の子供の世話をしながら、家族ときちんと向き合ってきた。家族だけでなく、会社以外の友人や地域社会とのつながりも大事にしてきました。70代になった今、そうした人たちとの横の結びつきが、私にとって非常に大きな財産になっています」
「家族と一緒に過ごしたい」「趣味やスポーツのために時間を使いたい」といった「やりたいこと」さえあれば、何とか工夫して仕事を速く片付けようとするもの。忙しさを言い訳に休みをとろうとしない人は、「結局のところ『休みをとれない』のではなく、『休みをとらない』だけではないか」と佐々木氏は問いかける。
「私は『働き方とは、生き方である』と考えています。本来はまず『自分が幸せになるにはどう生きるべきか』という人生設計があり、そのためにどう働くのかを考えるべきでしょう。ところが多くの人は、生き方を考えずに、働くことばかり考えている。それでは日本人の働き方が変わることはありません」
更新:01月18日 00:05