2017年11月02日 公開
2023年02月08日 更新
今、成功者の共通点として話題の「GRIT(グリット)=やり抜く力」。継続力に自信のない人でも、グリットを育む方法はあるのだろうか。プロサッカー選手として活躍したのち、現在も多くのアスリートを間近に見ている中西哲生氏にうかがった。《取材・構成=西澤まどか》
成功の秘訣は「才能」──。今、その概念を覆す「グリット=やり抜く力」が話題になっている。グリットについての研究をまとめた書籍がベストセラーとなったペンシルベニア大学教授のアンジェラ・ダックワース氏によれば、グリットとは、「情熱」や「粘り強さ」のことを指し、グリットがあれば、誰でも成功を手にできるという。
この研究は、教育者、アスリート、ビジネスパーソンなど、あらゆる分野から注目された。元サッカー選手でスポーツジャーナリストの中西哲生氏もその1人だ。自らの現役時代の経験や、一流のアスリートの育成を通して、やはりグリットが成功のカギだと語る。
「グリットを自分なりに表現すると、『地道なトレーニングの積み重ねを怠らない』『近道を探さない』そして『変わり続ける』ことと言えます。スポーツに限らず、多くの人は安易に上達する方法を探しますが、そんな方法は決してありません。一流と言われる選手たちは、コツコツと地味な練習を厭いとわず積み重ねることで、グリットを実行しています。
僕がアドバイスさせていただいている、イタリアのセリエAでプレーする長友佑都選手も、強いグリットの持ち主です。彼は、できないプレーがあると次回にはマスターしてきます。才能があるからできるのではありません。与えられた課題を、人より多く練習するからです。
僕の指導は、呼吸の仕方、食べ方、舌の位置など、地味なことを多く含みます。だから、一度話を聞きに来たきり、来なくなる人もいます。しかし、長友選手をはじめとして、Jリーグ出場の最年少記録を達成した久保建英選手、なでしこジャパンのエースストライカー永里優季選手など、一線で活躍している選手はみな、地道な努力を大切にし、怠りません。みな『神は細部に宿る』ことを知っているのです」
では、一流と言われる人々はどのように意欲を持続させ、グリットを実践しているのか。「やり抜く力=グリット」を下支えする要素のうち、中西氏はとくに3つの要素に着目している。
1つめは、「努力の方向性を見極める」こと。これは先述したダックワース氏が「意図的な練習」と呼ぶもので、結果を出すために重要なこととされる。
「やり抜くといっても、努力する方向が間違っていれば意味がありません。どうすれば目標に近づけるか分析し、何が〝肝〟かを見極め、それに沿って練習を積み重ねることがグリットです。この力に優れているのが、久保建英選手です。
久保選手が小学生の頃から指導していますが、彼は自分で課題を見つける力が非常に高く、僕の思考を先読みして、課そうとしていたトレーニングを自ら始めることがあります。
久保選手は左利きで、左脚の技術は優れています。先日、左脚で、ある一連の流れを習得する練習をしていると、彼は僕が次の指示をする前に、同じ動作を右脚でも再現できるよう自ら練習し始めたのです。子供たちも指導していますが、ほとんどの子供は自分の得意なことしか練習したがりません。でも久保選手は、これを苦手な右脚でもできるようになれば全体のスキルが底上げされると見抜き、自ら実行したわけです。こうした視点や実行力は、まさにグリットに必要なものです」
更新:11月26日 00:05