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ロテルド比叡の「スペシャリテ」

2017年10月01日 公開
2023年07月12日 更新

<連載>続・星野リゾートの現場力(2)

 

サービススタッフとの垣根をなくす

ロテルド比叡では、5人の調理師がオーベルジュの顔である夕食の調理を担っている。

一方、朝食は、宿泊施設のサービススタッフがマルチタスクの一環として調理する。マルチタスクとは、ある担当業務に特化するのではなく、全員がフロント業務、客室清掃、調理、レストランサービスのすべての業務をこなすという、星野リゾートの全施設に共通する働き方である。マルチタスクによって業務の効率化を図るとともに、ゲストの滞在全体を通してニーズを吸い上げる狙いがある。

調理師ではない人が厨房に立つことに、はじめ岡さんは「単純に驚いた」。これまでの料理人人生では考えられなかったことだ。

「料理人にはプライドがあります。料理人以外の人が厨房に立つことも、料理人以外の人からの口出しされるのも嫌う傾向があります。ですから、料理人とサービススタッフは仲が悪いのが普通だったんです。調理場の状況もわからずに、サービス側には勝手なことを言ってほしくない、と」

ロテルド比叡の厨房では、料理人とサービススタッフの垣根は存在しない。実はこれこそが、星野リゾートが目指す「フラットな組織」を象徴するものである。

星野リゾートでは、ポジションの上下や担当業務に関係なく、自由に意見を言い合える環境を大事にしている。そうすることで正しい議論が生まれ、サービスの質の向上につながると考えるからだ。これまで料理人の聖域とされてきた厨房も、例外ではない。

サービススタッフと対等に仕事をするようになって、料理人の岡さん自身にも意識の変化があったようだ。

「お客様と直に接するサービススタッフからは、お客様の雰囲気やリアクションがリアルタイムで伝えられます。料理出しのタイミングなども、彼らは調理のことも理解したうえで意見してくれるので、こちらも耳を傾けやすい。これまでにない気づきがありますね」

逆に言えば、これまでは料理のクオリティには熱心だったが、ゲストのほうにはあまり顔を向けられていなかったと岡さんは振り返る。厨房とサービスの前線が古い縄張り意識を取り払い、コミュニケーションを密に取り合うことで、「(サービスに)ライブ感が生まれている」と話す。

岡さんには、ロテルド比叡で挑戦したいことがある。京都に近い地の利を生かし、オーベルジュとしての評価を高めていくことだ。

「できればミシュランにも選ばれるような料理を提供していきたいですね」

地元の食材や食文化を皿の上で表現していくことで、叶えていきたいと思っている。

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