2017年05月25日 公開
――男性の松本さんが中心となって女性の働き方に切り込む難しさはありませんでしたか?
松本 実は私は、この問題を解決するには男性が主導することが必要だと考えています。ここからは誤解がないようにと思いつつ率直にお話ししますが、このテーマを女性がやろうと思っても、正直なかなか難しいと思うんです。戦士のように働ける、すなわち主に男性だけが手にしていた「働く」という既得権益。そういうものがあって、これを女性が「私たちにもください」と言うだけだと、既得権者である男性からすれば拒否反応が起きると思いました。
でもこれは、男女が手を取り合わないと絶対に前に進まない問題です。だから私は、男性が手を挙げることも必要だと考えたのです。
男性が手を挙げるべきと思った理由はもうひとつあり、それは女性が主導したら「大きなトレンドにはなりにくい」と考えたためです。トレンダーズ時代、当時行なわれていた起業志望女性のサポートで、2000人の起業を志す女性に会い続けて思ったことがありました。それは、女性の起業は男性の起業に比べて「フリーランスと近い感覚である」ということです。
もちろん例外はありますが、多くの場合、女性が起業するというと、それは好きなことを、好きな仲間で、好きなペースでやりたいという思考であって、拡大させることへのこだわりなどは低い。だからメンバーもせいぜい2、3人というケースが多い。それはそれでいいのですが、個人サービスになっても事業にはなりにくいだろうというのが正直な印象だったのです。
――なるほど。女性に囲まれて働き、女性向けのサービスを作ってきた松本さんならではの、現実的な視点だと思います。
松本 実際、今、私がやっているようなテーマに取り組もうとした女性は山ほどいました。その人たちはやっぱりリクルートなりで働いて、「同じ悩みを抱えている女性を助けたい」という思いで起業し、コンサルタントなどをされています。もちろんその仕事自体は尊いのですが、個人サービスの域を出ていないと考えます。
しかし、ライフステージに合わせていきいきと働ける女性を増やすことは、私にとっては、日本を変えるテーマです。今となっては国を挙げたプロジェクトでもあります。その時に、個人サービスが束になっても、圧倒的に足りないんです。一方で、国がやれと言っても、なかなか進むものではない。だから民間からがんがん突き上げて、存在感を示せる規模になることが必須。そうして国と民間が手をとりあって伴走して、やっと実現できるテーマであると思っています。
だから私たちは、国や腰が重い大企業すら一目置くような存在にならないといけない。そう考えると、リクルートで事業を学びトレンダーズを上場させ、仲間を集めお金を集め事業をつくり拡大してくことを得意とする自分がやるのは相性がいい。それに今までの経緯で、このミッションを掲げて声がけすれば、思いをともにする女性(男性もですが)がたくさんいることはわかっていました。強い組織ができるとわかっていたのです。
――御社自体も多様な働き方の社員さんがいるそうですが?
松本 最も特徴的であり、当社が先進的に行なったことといえば、「メンバーシップオプション」制度ですね。簡単にいえば、複業OKの働き方です。わかりやすい複業・兼業はもちろん、他社で社長をやっている人が、うちで社員をやっているなんていうこともあります。創業当時からやっていて、当初はテレビなどからたくさん取材も受けましたが、今は他社でも取り組まれるようになりましたね。
働くママはもちろん、自分で起業しながらうちで働いてくれている人もいます。週3、4回は当社の仕事をし、週1、2回は自分の会社のことをする。高いモラルが求められますが、そこは性善説でやっています。外でも求められる人はうちでも高いパフォーマンスを発揮するはずだ、というわけです。もちろん、当社で学んだことを自社あるいは他社で生かしていることもあるでしょう。
――御社とそれ以外にかける時間のバランスは人それぞれなのでしょうか。
松本 それぞれですね。当社8、外部2の人もいれば、当社2、外部8の人もいます。8:2が2:8に変わる人もいますし、逆になる人もいます。また、最初は外部9だったのが100%当社の社員になる人もいれば、逆に当社から卒業していく人もいます。これが、いいんです。こういう間口の広さがないと、自分の会社を経営していたり、外でも求められるような人材が、そもそも来てくれませんから。
このような取り組みの結果、おかげさまで、当社のサービスのみならず、マネジメントスタイルに対しての賞も複数いただいています。2017年度「働きがいのある会社」女性ランキング(Great Place to WorkR Institute Japan)では、従業員100人未満の部門では1位をいただくことができました。
――そうした雇用を怖がる経営者もいると思いますが、信頼関係はどのように?
松本 当然、ルール整備やコミュニケーションの設計等、細かいことはたくさんあります。ですが、一番は、「もう、凝り固まった既成概念にとらわれている時代じゃないですよ」ということですね。たとえば会社のメンバー同士の信頼関係構築について、毎朝満員電車に乗ってやって来て、定時まで机に座っている人が信頼でき、そうでない人は信頼できないかといえば、そんなことはありません。
ペイフォータイムの時代は終わり、ペイフォーパフォーマンスの時代です。ある仕事を朝から定時まで7日間かけてやる人より、週1回来て同じパフォーマンス出してくれる人のほうがありがたいのは、火を見るより明らかです。ビジネスは複雑化し、企業の寿命が縮まっている。どんな人が本当に必要で、ありがたいのか、経営者は凝り固まった既成概念を打ち捨てて、考えてみるべきだと思います。
――最後に、今後の展望をお聞かせください。
松本 信用ゼロ、知名度ゼロ、すべてゼロから始めた会社で、かつテーマが難しい。私たちの起業は、完全なるゼロからのスタートでした。多くの企業が、「結婚して子どもを産んで辞めるかもしれない女性」と「戦士のように働きそうな男性」が目の前にいたら、後者を選んでしまいがちな世の中。
そこへ切り込もうとすれば、いきなりわがままは言えません。いくら「こうしたらいいですよ」「それが御社のためにも日本のためにもなりますよ」なんて言っても、聞いてもらえるはずがない。
だから、まずは企業が欲しがる人を紹介して実績を作りました。私たちにしかできないマッチングを実現するはずが、企業の求めることをしないといけませんでした。でも、そうして信頼関係を築き、実績を出し、3年が経ってようやく、「実はご提案なのですが」と言って、新しい人材や働き方のフォーマットを提案できるようになりました。やっと、やりたいことができるようになったのです。
私たちの使命は、女性が人生のシーンに合わせて快適に、力を発揮できる世の中にすることです。これからも、ステージに合わせて多様な雇用形態を得られるサービスを充実させていきたいと思います。挑戦の敷居を下げ、どんどん挑戦していただける環境をつくっていきたいです。
《写真撮影:山口結子》
更新:11月22日 00:05