2017年05月25日 公開
――女性の採用に積極的な企業はどうやって見つけているのですか?
松本 企業へはこちらから「御社は女性を戦力にすることで、さらに成長できるのではないか」という提案をしています。とはいえ今、伸びている企業はどこも女性が活躍していますし、最近は国の旗振りもあってどこも女性の力を求めていますから、企業からお問い合わせをいただくこともあります。人口も減る一方ですし、男性だけが活躍できる会社ではなく、男女が活躍できる組織にしたいというのはみなさん共通です。
ただ、どんな女性が自社で活躍してくれるのか、そこに悩まれる企業は多い。そこで私たちが、「御社のそのお仕事であれば、こんなキャリアの女性が適任ですよ」というご提案をしたり、あるいは「フルタイムの方を探さなくても、時短社員さんで問題なく回せると思いますよ」などとアドバイスをさせていただくこともあります。
――企業の意識も変わってきているのですね。
松本 それはそうですね。というか、そうでないと困ってしまいます。だって、高度経済成長期そのままの、「残業、転勤、終身雇用、なんでもござれ」という、まるで戦士のような働き方のできる人じゃないとレギュラーでいられないなんて言っていたら、どうなるでしょうか? 今、日本が抱えている問題は、人口減少だけではありません。介護問題もあります。僕も今、介護ではありませんが闘病中の父にできる限り会おうとしばしば帰郷していますが、場所が離れているので時間もエネルギーもかかります。
自分のことだけに24時間使える人なんて、これからはほとんどいなくなるでしょう。保育園に入れられない子育て中のお母さんはもちろん、介護離職だってどんどん増えてくるはずです。脂ののった40代、50代が会社を辞めれば、企業のダメージは避けられません。
――家族などのために時間を割くことを、いまだになんとなく言いにくい会社も多そうです。
松本 「誰かのために時間を使いたい人」でも社会に参加できるようにしないと、日本が必要とする労働力はとてもまかないきれません。今は人生100年時代ともいわれていて、80代、90代まで働く社会が近づいてきています。労働力が必要な国だけでなく、個人にとっても、多様な働き方で社会に参加できることが豊かな人生に直結します。
だから、「働き方のフォーマット」を増やしていく必要があるのです。そういう意味では、女性だけではなく男性にも、多様な働き方の提供があってしかるべきだと考えています。時短、リモート、副業など、さまざまな「働き方のフォーマット」が増えれば、もっともっと活躍できる人が増えます。働く人の総数を増やすことができるのです。
――では、なぜユーザーを女性に絞ったのでしょうか?
松本 私、学生時代にバックパッカーをしていたんです。その時、これは「バックパッカーあるある」なんですが(笑)、自分が日本人であることを強く意識すると同時に、日本のいいところが次々に見えてきました。世界中どこに行っても日本が一番安全で、一番ご飯が美味しくて、街もきれいで。やっぱり日本ていいよな、って素直に、強烈に感じました。その時、自分が起業する際には、いつかは世界で勝負してみたいなんてことも思いつつ、まずは自分が生まれ育った日本が停滞していて未来が見えないのをなんとかしたいと、そう思ったのです。それはすごく素直な気持ちでした。
それで、自分の生まれ故郷である日本に貢献できる事業を考えた時、日本の諸問題はほとんどが人口構成のゆがみからきている、ということに思い至ったのです。不景気も、年金問題も、社会保障費問題も、結局は労働力が減っていき、お金を使う人も少ないのが原因です。そりゃあ右肩下がるよな、という話ですよね。人口構成、労働力のゆがみを是正しないといけない。
――そこで、松本さんが出した答えが女性の活躍だった、と。
松本 はい。人口構成のゆがみ、労働力の不足に対して、じゃあ移民を受け入れるのか、いやAIだ、とそれぞれの解決プランがあるわけですが、僕は女性の活躍だと思いました。なぜなら人口の半分が女性ですし、なんといっても日本の女性の教育水準は世界トップクラス。だから、20代の女性は活躍していますよね。企業も優秀な女性の存在をよくよく知っているわけです。ただ、働き方のフォーマットが少ないから、結婚や出産を機にレールから外れてそのまま戻れないような状態になってしまう。この問題を解決すれば、インパクトは大きいと確信しました。
レベルが高く、人数も多い層が、働きたくても働けない状態でくすぶっている。これは何よりも先に取り組むべき問題だと考えました。だから起業する時には、女性の働き方にまつわる環境整備が喫緊の課題だと明確に考えていたのです。
女性の労働環境にまつわる問題を解決できれば、すなわち働き方のフォーマットを増やすことができれば、女性は安心して子どもを生んだり子育てをしたりできるようになり、それはつまり男性にとっても働きやすい社会ということにもなります。
――問題に対して、この手で解決しなければという意識が非常に高い松本さんですが、起業自体は昔からしようと思われていたのでしょうか。
松本 起業することは子どもの頃から決めていた、と言えると思います。私の家は、代々商いをしていたんですね。景気がよければおかずが一品多いみたいな(笑)。だから、生きていくことは働くこと、という実感が染みついていました。それで、「僕も早く自立したい、自分で自分の人生のハンドルをにぎりたい!」と、幼少期からずっと思っていたんです。貧乏でも苦労してもいいから、って。だから大学は全部自分でお金を用意して行きました。在学中も自立したい気持ちがとにかく強く、生活費諸々お金も必要だということで、仲間と起業したのです。
――学生起業されていたのですね。上手くいきましたか。
松本 ええ。お金稼ぎという意味では、ビジネスはとてもうまくいきました。がむしゃらに働いてお金が稼げるのは面白かったです。でも、当然ながら学生ベンチャーの域を出なかった。今、思えば当たり前すぎて笑ってしまうのですが、本屋に行って本田宗一郎氏の本を読んだりして、そのあまりの差に悩み始めたんですね。何が違うって、本屋に本が並ぶような経営者たちの会社は、きちんと社会貢献していて、社会に利益を与えつつ自分の会社の社員にも貢献している。では自分はどうか。ひたすら毎日働いて、お金は入ってくるけれど、でも「あれ? 自分はこんなことがしたかったんだっけ?」という疑問が頭をもたげて、離れなくなった。
その結果、ちゃんと会社というものを、事業というものを学びたいと思って、一度会社に就職することに決めました。入社の動機はひとつだけ、「盗みたい会社に入る」ということでした。それで選んだのがリクルートだったのですが、ここで私は女性に囲まれて働くことになったのです。
――女性と働いて気づいたことがあったのでしょうか。
松本 リクルートで最初に携わった『ホットペッパー』の事業は8割が女性メンバーでしたし、その後、女性向けのファッション通販サイトも担当しました。まずここで、女性向けのビジネスって面白い、と思ったのです。男性はあまりモノも買わず、ファッション誌もバラエティが少ないですが、女性向けは商品でも雑誌でも、とにかくバラエティに富んでいる。こちらが提案すれば、打てば響くように反応が返ってくる。その感性の豊かさを知って、女性をターゲットしたビジネスは面白いなと思いました。
次に、役員、COOとして入ったトレンダーズも女性だらけでした。ここで痛感したのは、働く女性たちというのはこんなに悩んでいる、もっと正確に言えば「モヤモヤしている」のか、ということです。非常に驚きました。女性は男性に比べて、まだ見ぬ未来について悩んでいることがとても多いですね。今現在、彼氏がいなくても、結婚や出産を想定し、仕事と天秤にかけて、心配していたり。このままバリバリ働いていて、自分は幸せなのだろうかと考えていたり。男性からすると驚きでもありましたが、同時に「そりゃそうだよな」とも思ったんです。
女性はライフイベントやその時期によって男性以上に人生が大きく変わります。そして実際、私の周りでは、ライフイベントにともなって仕事を休んだり諦めたりする女性がいました。それを見て、いつも、もったいないなぁと思っていました。
このような経緯があり、いざ起業しようと思った時、「女性の働き方を創業事業にしよう」というのは、自然に点と点がつながるように決まったのです。
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更新:11月22日 00:05