2017年05月05日 公開
2023年04月06日 更新
野口 DAOは、他にもいろいろな応用が考えられます。たとえば、出版業をDAOで運営していくこともできる。ブロックチェーンで著者を選び、発注する。原稿をオンラインに掲載し、原稿料の支払いなども全部自動的に行なうのです。こうなると、編集者はいらなくなります。
――それはちょっと困りますが……(笑)。ブロックチェーンはさまざまな分野に応用が効くということですが、そうなると、ブロックチェーンによってなくなる仕事も発生してくるのでしょうか。
野口 まず「仲介者」がいらなくなります。たとえば、誰かに宿泊先を提供するためには、「鍵を渡す仲介者」が必要でした。しかし、Slock.itがあればそれが不要になる。モノを右から左に動かすだけ、情報を伝えるだけといった仕事は、DAOによって早晩なくなるでしょう。
――働く人にとってブロックチェーンは「脅威」になるということですか。
野口 そうとは言えません。むしろ私は、ブロックチェーンの活用によって、より人間らしい仕事に注力できるようになると予想しています。
たとえば、小さなレストランを経営するオーナー兼シェフがいたとします。この人は料理が好きでこの仕事を選んだのですが、実際には料理以外の仕事が山ほどあります。材料の在庫管理、水道光熱費などの支払い、会計と帳簿付け、税務署への申告……といったルーティン・ワークです。オーナーはこれらすべてを自分でやるか、人を雇って任せなくてはならなかった。今後は、これらのルーティン・ワークは全部DAOに代えられるはずです。
しかし、DAOでは料理を作ったり、新しいメニューを開発したりすることはできません。DAOによって、料理を作るという本当にやりたい仕事だけに専念できるようになるのです。
――なるほど。DAOがあるからこそ、人間はより人間らしい仕事ができるということですね。「人間らしい仕事」とは、具体的にどのようなものでしょうか。
野口 料理のような独創性が問われる手仕事はもちろん、介護サービスであれば、高齢者の話し相手になるような仕事もそれに当たるでしょう。
――最近よく「人間の仕事がロボットに奪われる」という話がメディアを賑わわせています。こうした話とDAOとはどのような関係にあるのでしょうか。
野口 DAOによってどんな未来がもたらされるかについては、下の図のように、労働者がいる/いない、経営者がいる/いないの2軸で、4つに分類するとわかりやすいでしょう。
【出典『ブロックチェーン革命』(野口悠紀雄著、日本経済新聞出版社)より】
図の左上が現在の企業の姿です。経営者がいて、労働者がいるという形です。
ロボット化が進んだ企業は、図の右上に当たります。経営者はいますが、労働者はいません。その代わりに機械が使われている。たとえば、フルオートメーションの工場で機械が自動的に製品を作っている企業です。銀行のATMコーナーは、窓口の行員がロボットに代わったものです。
DAOは、この図の左下に当たります。ここには、人間にしかできない仕事をする労働者はいます。しかし、組織を運営する経営者は、ブロックチェーンに取って代わられているわけです。
つまり、DAOにおいては、人間にしかできない創造的な仕事が労働者の仕事の中心になるということです。最も人間らしい仕事に専念して、働く喜びを実感できるような働き方が可能になると考えられます。
――右下の、「経営者も労働者もいない会社」というものも、将来現われる可能性があるのでしょうか。
野口 十分にあり得ます。ブロックチェーンとAI(人工知能)によって完全に自動化された会社です。まだ現実には存在しませんが、フィクションではすでに描かれています。
たとえば、映画『ターミネーター』シリーズに登場する「スカイネット」です。スカイネットはブロックチェーンのようなコンピューターの集団で、ロボットの兵士たちを作り上げ、使役して人類を殲滅しようとする。こうした組織では、経営者も労働者も自動化されているわけです。
更新:11月23日 00:05