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野口悠紀雄の「ブロックチェーン」講義 第3回「DAO」は会社と仕事をどう変えるか?

2017年05月05日 公開
2023年04月06日 更新

野口悠紀雄(経済学者)

2つのブロックチェーン、2つの未来

――ビットコインを支えている技術、というイメージしかなかったブロックチェーンですが、社会全体を変えていく、まさに革命的な技術であることがわかってきました。ブロックチェーンにより、我々の未来はより自由なものになっていく気がします。

野口 ブロックチェーン本来の性格から言えばそのとおりです。ただし、気をつけねばならないことがあります。それは前回もお話しした「パブリックブロックチェーン」と「プライベートブロックチェーン」の違いです。

たとえば、現行の通貨制度の代わりにブロックチェーンによる仮想通貨が主流になれば、より自由な取引が可能になるでしょう。しかし、それは参加が自由で管理者がいないパブリックブロックチェーンの場合です。プライベートブロックチェーンが主流になると、話は大きく変わります。

前回の連載で述べたように、プライベートブロックチェーンとは、「ネットワークに入るコンピュータを組織が自分たちで決める」というものです。「誰でも参加できる」パブリックブロックチェーンとは根本思想が違います。「銀行が悪いことをするはずはない」「証券取引所が不正はしないだろう」といった信頼に基づく仕組みです。

では、中央銀行が主導する、パブリックブロックチェーンによる仮想通貨が国の通貨となったら、どうなるでしょうか。

――ブロックチェーンを使った仮想通貨では、P2Pと呼ばれるコンピュータネットワークにすべての取引が記録されるのでしたね。つまり、国民のすべての取引を国家が把握できる?

野口 そのとおりです。所得が完全に捕捉されるだけでなく、あらゆる経済活動を国家が把握することができる。国民全員のお金のやり取りが丸裸になるのです。

マイナンバーの導入を巡って個人情報の扱いが問題になりましたが、それどころの話ではありません。言ってみれば、ジョージ・オーウェルが『1984』で描いたような究極の管理社会、ビッグブラザーの世界の到来です。

すでに現在、各国の中央銀行はブロックチェーンを使った独自の仮想通貨を発行しようと研究を行なっています。たとえばスウェーデンの中央銀行では、数年以内に仮想通貨を導入するのではないかと見られています。各国の中央銀行が仮想通貨の発行を検討している今、こうした未来はSF的な想像ではなく、ぼやぼやしていると本当にそうなる、という段階まで来ています。

パブリックブロックチェーンによる自由な社会がよいか、プライベートブロックチェーンによる管理された社会がよいかは、思想の問題であり、一概には言えないでしょう。しかし、2つのブロックチェーンのどちらを選ぶかが、将来の社会の性格を決める大きな意味を持っていることは、知っておく必要があります。

(取材・構成:川端隆人、写真撮影:長谷川博一)

著者紹介

野口悠紀雄(のぐち・ゆきお)

早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問/一橋大学名誉教授

1940年、東京都生まれ。63年、東京大学工学部卒業。64年、大蔵省入省。72年、イェール大学Ph.D(経済学博士号)取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授などを経て、2011年より現職。著書に、『「超」整理法』(中公新書)、『「超」AI整理法』(KADOKAWA)など、ベストセラー多数。

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