2017年01月05日 公開
2023年05月16日 更新
「ブロックチェーン」……最近、新聞や経済誌の見出しでこの語を目にした人もいるはずだ。とくにあの「ビットコイン」の基幹技術として言及されることが多い。
ビットコインに代表される仮想通貨発行事業は、最近にわかに注目が高まっている。日本のメガバンク(三菱東京UFJ銀行)が独自の仮想通貨を発行したり、海外の中央銀行(イングランド銀行)が検討中との報道も流れた。このような状況を受け、「ブロックチェーン」が注目を集めているのだ。
ただ、その仕組みは複雑だ。さすがに「わからない」では恥ずかしいが、ややこしい技術が絡む話題だけに、まずは最低限のことだけ知っておけばいい……今回、野口悠紀雄氏の元を訪れた編集部も、最初はその程度の認識だった。
……いや、それだけではあまりにもったいない。
それが今回、野口氏の「講義」を受けた編集部の率直な感想だ。
ブロックチェーンは単なる金融の仕組みではなく、あらゆるビジネス、組織のありかた、さらには私たちの働き方に本質的な変革をもたらす。すでにその変化は始まりつつあり、ブロックチェーンについてより早く、より正しく理解した者は、より速く変化に適応できるはずだ。
私たちはいま、ブロックチェーンという画期的発明による「社会革命」の入り口に立っている。そのことを、この連続インタビューからぜひ、感じ取っていただきたい。
――そもそもブロックチェーンとは何か、というところからお話をうかがいたいと思います。ブロックチェーンは「ビットコイン」と結びつけて語られることが多いですが、どうしても我々は、「ああ、あの怪しい……」というあたりで終わってしまうので。
野口 ブロックチェーンをひと言で表わせば、「電子的な情報を記録する仕組み」です。これが仮想通貨・ビットコインの基礎技術になっているのです。
3年ほど前、ビットコイン取引所であるマウントゴックスの破綻で、ビットコインはいかがわしいものと思われてしまいました。ただ、その後もビットコインの取引は拡大し、さらには、通貨以外にブロックチェーンを活用したさまざまな取り組みがスタートしているのです。
ブロックチェーンの応用としてよく知られるようになっているのが、銀行が独自に発行する仮想通貨です。日本でも三菱東京UFJ銀行がブロックチェーンを使って仮想通貨「MUFGコイン」を2017年の秋ごろに発行しようとしています。他にもいろいろな銀行が検討しています。
あるいは、証券の取引への応用です。取引の後に行われる決裁・精算にブロックチェーンを使う実験が米ナスダックで行われ、日本でも証券取引所グループが実験に成功したと発表しています。
他にも、保険の分野などでもいろいろな応用が考えられています。
――ここまでのお話を聞くと、ブロックチェーンというのは今はやりの「フィンテック」、つまり金融の世界の話のように思えるのですが。
野口 それだけではありません。ブロックチェーンの活用は金融に限るものではなく、さまざまな分野で新しい事業が出てきています。一方、「フィンテック」と呼ばれるものの中には、ブロックチェーンを利用しているものも、そうでないものもあります。
ブロックチェーンの金融以外への活用例としては、IoT(Internet of Things モノのインターネット)への応用があります。IoTの課題である運営コストの問題を、ブロックチェーンによって解決することが提案されています。
エストニアでは、婚姻・出生・ビジネス契約といった政府の公的サービスへの応用が始まっています。自転車や自動車のライドシェアリングなど、シェアリングエコノミー分野への応用も数々のスタートアップ企業によって始められており、そこには莫大な資金が集まりつつあります。
その他にも数多くの分野でブロックチェーンを用いるプロジェクトが進められており、その応用範囲は非常に広いと考えられています。
――ブロックチェーンはフィンテックにとどまらず、世の中全体を変え得るものだということですね。
野口 応用範囲が広いことに加えて、もう一つ注目すべきことがあります。ブロックチェーンを使って事業を起こそうとしている企業は、経営者がいない組織、自動的に動く組織になっているということです。つまり、企業が消滅したとしても事業は続いていく仕組みが、ブロックチェーンによって可能になっている。DAO(ダオ)と呼ばれるこの仕組みについてはいずれ説明しますが、 これが未来の企業の形になると考えられているのです。
ブロックチェーン技術の影響は、社会の仕組みを大きく質的に変えることになるはずです。ここ数年のうちに大きな進展があるでしょう。今はちょうど、1990年代にインターネットが使われるようになった初期とよく似ている状況だと言えます。
更新:11月21日 00:05