2017年01月28日 公開
2023年05月16日 更新
ノンフィクション作家として、30年以上にわたって第一線で活躍している野村進氏。真に迫るその作品は、取材相手との会話はもとより、その場の雰囲気や、相手の細かな表情の変化までをも記録した詳細なメモから生み出される。
野村氏が取材で使用しているのは、A4の大学ノートだ。
「見開きの左ページには、相手の発言で重要だと思われたものを、方言や語尾などを含めて一言一句書くようにしています。右ページには部屋の様子や相手の服装、表情、取材中に浮かんだ疑問などを書きます」
こうしたメモにより、相手の人物像やその場の雰囲気がリアルに読者に伝わる文章を書くことが可能になるという。
「人によっては大学ノートを目の前で広げられると、緊張する人がいます。そこで別に小型メモも持参しておき、机の下など、相手の目に入らないところでメモするようにします。そして後で大学ノートに書き写します」
ただ、本当に知りたい相手の本音は、緊張が解けた取材後の立ち話で聞けることも多い。そんなときはその場の会話を丸暗記しておき、後で急いで喫茶店などに入り、ノートに記録するという。
「会話の中で出てきたキーワードを暗記しておけば、そのキーワードを手がかりに会話の全容を思い出すことができます」
商談の際よりも雑談時のほうが本心を聞きやすいのは、仕事の場でも同じはず。メモは本番後こそ、実は大切なのだ。
左ページは、方言や語尾などの言葉遣いを含め、発言のまま書き写す。取材後、作品で使用したい発言をピックアップし、赤い線で印をつけておく。右ページには、部屋の様子や印象、相手の服装、表情の変化などを書き記す。また、取材対象者に対して浮かんだ疑問もメモしておく。
取材構成 長谷川敦 写真撮影 永井浩
『THE21』2017年1月号より
更新:11月26日 00:05