2017年02月24日 公開
2023年04月06日 更新
物忘れが激しい、新しい知識が定着しない……そんな悩みを持つ人は多いだろう。社会人が新しいことを覚えるためには、具体的にどうすれば良いのか。そこで、予備校のカリスマ講師として知られ、ビジネスマン向けの勉強法などの著書も数多く出版している出口汪氏に、覚えるべきことをしっかり記憶し、それを定着させるための方法論についてうかがった。《取材・構成=林加愛》
学生時代、試験勉強などで「暗記」しなければならないことは多かったと思います。そんなとき、なかなか覚えられず苦労した経験を持つ人は、「自分は頭が悪いから覚えられないんだ」と思っているかもしれません。
実は、それは間違いです。記憶力は本来、頭の良し悪しとは関係のないものです。では、覚えられる人とそうでない人は何が違うのか。それは、記憶するための「方法」です。方法を間違わなければ、誰でもきちんと知識を蓄積できるのです。
間違った方法とは何かというと、典型例としては「詰めこみ型暗記」です。学生時代、歴史の年代や英単語をやみくもに覚えた経験が誰にでもあるはず。これは効率の悪い方法です。
とくにビジネスマンの場合、学生の試験勉強と違い、記憶したことをアウトプットし、パフォーマンスにつなげなくてはならない立場でしょう。そのとき、膨大な暗記で脳内が情報過多になっていては、適切に情報を取り出せません。
そもそもこの時代、情報の量や正確性に関してはコンピュータのほうがはるかに上。細かいことは機械に任せ、「大事なことだけを覚える」のが肝要です。
では、大事なこととそうでないことを見分けるには何が必要でしょうか。それは論理力です。書かれていることを筋道立てて理解する力が不可欠なのです。
論理的に物事を見るときの物差しは三つ。「イコール関係」「対立関係」「因果関係」です。
個々の事例や現象から共通項を引き出す、共通項を持つ概念との対立概念を見出す、何が原因で何が結果かを見極める。これらの視点を持てば、書かれていることを構造的に理解できます。記憶するには、この「理解」が不可欠なのです。
「理解しなくても、覚えることは可能では?」と、「詰め込み経験者」は考えることでしょう。確かに、一時的に記憶することはできます。しかしその記憶を、ずっと維持できるでしょうか?
記憶には「短期記憶」と「長期記憶」があります。五感で受け取ったあらゆる情報は、一時的に脳の「海馬」に保管されますが、この短期記憶は、すぐに忘れ去られるものです。電車で向いに座った人の服の色は、降車直後なら覚えていられても、数時間後には忘れるでしょう。
それに対して、「これは保存すべき」と脳が判断した情報は、「側頭葉」にある長期記憶に入ります。
その判断基準の一つが「関心」です。もし向かいに座った人が魅力的だったり、服のデザインが印象的だったりすれば、数時間が経っても記憶は薄れません。興味があれば自然に情報は頭に入り、持続するのです。
そしてもう一つの基準が「理解」です。情報を整理して理解すると、脳はそれを長期記憶に振り分けます。
つまり目指すべきは、関心と理解とを持って「長期記憶」へと情報を刻み込むことなのです。
更新:11月22日 00:05