2016年10月31日 公開
2023年05月16日 更新
この、考えすぎずに「やる!」という姿勢が、50歳でのブックオフの起業にもつながった。
「立ち上げた当初は、周囲から『気でも違ったのか』という目で見られました。大々的に中古書販売をやろうとすれば出版業界から非難を浴びるのは目に見えていたし、考えられるリスクはいくらでもありました。しかも50歳で新たに起業するなんて、当時の常識ではとんでもないこと。今でこそ中高年で起業する人も増えましたが、その頃、取材に来た記者から、『墓場に片足を突っ込んだような歳で』と失礼な言われ方をされたこともあったほどです(笑)。
でも私は、『やる!』と決めた。そして、いったん決めたら、怒濤のごとく突っ走ったのです。
私は父親の事業が何度も倒産しそうになるのを見て育ったので、リスクに対する感覚が一般の人と違うのかもしれません。私にとってリスクは、『仕事をするときの楽しみの一つ』くらいの感覚ですね」
他人の経験を聞いて学ぶという姿勢を徹底していた坂本氏だが、「話を聞く相手はくれぐれもよく見極めるべき」とアドバイスする。
「やはり自分自身で実践をしている人の意見を聞くべき。本も同じです。巷には成功術について書かれた本があふれていますが、実際にリスクを取ってビジネスをやったことのない人が書いたことなど、聞いても意味がありません。ところが、そういう人の話や本を真に受けて、そのとおりにやってしまう人がいる。自分の力を信じないから、どうでもいい人の意見に振り回されるのです。
私が人生で最も影響を受けた京セラの稲盛和夫氏は、まさにリスクを取って挑戦を続けてきた人です。出会いは私が50代のときでしたが、本当に多くのことを学びました。
稲盛氏が素晴らしいところは、平易な言葉でわかりやすく話してくださることです。本来なら、私と稲盛氏ではレベルが違いすぎて、話を聞いてもただ感心するだけで終わってしまうところでしょう。日本ハムの大谷投手が『こうやったら速い球が投げられますよ』と教えてくれたとしても、きっと理解できないのと同じです。ところが稲盛氏は、私たちが日常的に直面する身近な課題にもとづいて経営を語ってくれる。だから理解できるし、言葉がストンと腹に落ちるのです。
皆さんも、40代から自分を成長させたいなら、大事なことをわかりやすく教えてくれ、自分を導いてくれる師匠を見つけてください。いくら仕事が忙しくても、日頃からなるべくたくさんの人と接して、人を見る力を養ってほしいと思います」
そして、「負け続きだった40代も、今から思えば、50代以降に成功するための土台作りの時期だった」と振り返る。
「先ほど、自分の失敗からはなかなか学べないとお話ししましたが、それでも得たものはあります。それは、『ウソをついてはいけない』ということ。人間にとって一番大事なのは、正直さである。これが失敗から得た最大の教訓です。一度でもウソをつくと、そのうち『商売のため』『営業成績のため』と理由をつけて、どんどんウソをつくクセがつきます。バレていないつもりでも、他人にはすぐわかります。そして、信用を失います。そのことを私は、自分の体験からも、人の失敗談からも学びました。諦めずに正しいことを続けていれば、必ず花開きます。
40代は大変なことがたくさんあるでしょうが、そこで諦めたり腐ったりしてはいけません。40代が一番良い時期なのですから。体力や気力も十分だし、世の中のこともよくわかっている。ビジネスマンにとって、40代こそゴールデンエイジですよ」
《取材・構成:塚田有香 写真撮影:まるやゆういち》
《『THE21』2016年10月号より》
更新:11月22日 00:05