2014年02月10日 公開
2023年05月16日 更新
《『THE21』好評連載「坂本孝・仕事は40歳からが面白い」第3回より》
中古ピアノ販売、ブックオフ、そして「俺の」レストランと、誰もやってこなかった「ビジネスのスキマ」を見つけ、型破りなアイデアを実現してきた坂本氏。そこに必要なのは発想力だけでなく、それを実現するための実行力や人望力なども不可欠だ。優れたアイデアをどのように実行してきたのか、その方法に迫る。
<取材構成:前田はるみ/写真撮影:永井浩>
すでに誰かがやったことを真似たり、既存の領域で闘ってもビジネスでは勝てません。誰も気づいていない可能性のスキマを見つけて、そこに51%の勝算があれば迷わず挑戦する。ブックオフの成功はそうやってつかみ取ったものです。
では、ビジネスのスキマを見つけるにはどうすればいいのか。世の中で起きている変化に対して、好奇心を持って首を突っ込んでみることでしょうね。人だかりができていれば中をのぞき込んでみたり、飲食店の前に行列ができていれば、自分も列に並んで食べてみたり。話題の店がオープンするときには、私も必ず行って、開店前の人の列に並ぶようにしています。世の中では何が流行っていて、どういう人たちが集まっているのか。世の中の先端で何が起こっているかを、知ろうとする姿勢が大事です。
たとえばコンビニでおにぎりを買う場合でも、梅、昆布、鮭といった定番商品を買うのではなく、新商品を買ってみる。「へえ、こんなものが入っているんだ」と何でも試してみるといいですよ。あるいは、店員さんに新商品をすべて集めてもらい、5000円札で買えるだけ買ってみるというのもお勧めです。定期的にコンビニを訪れて定点観測すれば、世の中の流行や人の動向が見えてくるはずです。
定点観測の場所として、書店もぜひ加えたいところです。最近は本を読む人が減っているとはいえ、ベストセラーと呼ばれる本には「いま」という時代が反映されています。売れ筋の1位から5位くらいまでは、まえがきやあとがきに目を通したり、書評を読んでみてはどうでしょうか。私はひと月のうち3時間くらいは書店をぶらぶらし、ビジネス書や文芸書、美術、音楽などのジャンルで売れている本をチェックしています。
ほかにも、ファッションなら日本発の世界ブランドであるユニクロ、男性なら伊勢丹のメンズ館、食べ物であれば吉野家やサイゼリヤ、丸亀製麺、それにスシローなどのお店は年に1度は訪れたいものです。流行の商品や料理を自分の目や舌で確かめることで、世の中のトレンドを察知する感覚が養われていきます。銀座の高級寿司店で30分3万円を支払った人でも、スシローで食べると「旨いな」と感じると思いますよ。
世の中の動きに敏感になるには、日々の行動を変えてみることも効果的です。通勤電車では毎日違う車両に乗ってみたり、通勤経路を変えてみるだけで
も、見える景色が変わり、新たな発見があるかもしれません。さらに言えば、社内会議ではメンバーの座る席を固定せず、毎回違う場所に座ってみると、柔軟な発想で物事を捉えられるでしょう。そのような考えのもと、私の会社では会議での席を毎回変えています。
流行りの店や行きつけの店での定点観測や、毎日の生活パターンを意識的に変えることで、気づきが増え、時代の先が見えるようになります。
たとえば書店の株関連のコーナーには、少し前まで「株価はまだまだ下がる」と予測する本が大半で、「株価は上がる」と主張する本は少数派でした。ところが、いまはそれが逆転し、「株価は上がる」と予測する本が多数を占めつつあります。少数派が多数派になったとき、相場は大抵、終わりを迎えます。昔、日経平均株価が3万5000円の高値をつけたときも、たくさんの人が初心者向けの株の本を買い求めに書店にやって来ました。大衆はいちばん後からついてくるものです。
株に限らず、少数派のうちにトレンドの“走り”をつかまえたいのです。そのためには、繰り返しになりますが、流行りの店や商品を自分でも試してみるという経験を重ねながら、時代に対する勘と感性を磨いていくことが大切だと思いますね。
俺のイタリアンと俺のフレンチは、一流のシェフによる一流料理と、立ち飲みという業態を組み合わせて誕生したものです。この組み合わせも、これまで誰も試みたことのない挑戦であり、だからこそ際立った競争優位性を確立することができたのだと思います。
この組み合わせが絶妙だと評価いただくことが多いのですが、これは「何と何を組み合わせれば面白そうだ」という発想から生まれたものではありません。幸せではない人を幸せにすることができれば、そこにビジネスチャンスがある。これが私のアイデア発想法の基本です。
それまでシェフが置かれてきた環境を知るにつれ、シェフがもっと活躍できる場を提供したいという想いが強まりました。高級レストランで働いていても、料理人には自由にメニューを決められる裁量はなく、アイデアや技術を存分に発揮できないのが実情です。
その一方で、ミシュランの星付きシェフは、面接してみると、料理の腕だけでなく、人格も優れた人が多いことに気づきました。料理人として一流になるには、自分よりも優れた先輩料理人に教えを請うたり、海外で修業するチャンスをつかまなければなりません。これらは自分ひとりでできることではなく、周りからの助けを得ることが必要不可欠です。このように周りの人を巻き込んでいく過程で、人としての成長が促されるため、一流の料理人になればなるほど人格も磨かれていくのではないでしょうか。だからシェフは経営に向いている。この事実を発見したとき、身震いするほどうれしかったですね。
そこで考えたのが、シェフに裁量権を与えて店のマネジメントを任せ、客単価3000円の店で、多くのお客様に対して料理の腕を存分にふるってもらうことです。シェフの幸せをいちばんに考えて作ったのが、「俺の~」のビジネスモデルだったのです。
シェフの次に注目したのが、ジャズのミュージシャンでした。ミュージシャンも、科理人と同じように、才能がある人材の活躍の場が少ない職業です。最近は彼らが演奏できるクラブやバーがどんどん減っており、音大を卒業したとしても、年収は250万円ほどだと言います。青春時代のすべてを音楽に費やして努力してきたにも関わらず、音楽だけでは生活できないのです。そんな彼らの実情を見聞きするにつれ、飲食店とジャズを組み合わせて、ミュージシャンたちが演奏できるステージを作ろうと考えたのです。
「俺の~」シリーズの「俺のやきとり」にジャズの生演奏を入れようとしたとき、「やきとり1本59円なのに、ミュージックチャージが300円なのはおかしい」と反対する人がいました。しかし、私の独断でコラボを実現してしまいました。ジャズの生演奏はお客様にとっても価値が感じられますし、何より演奏する場を与えられたミュージシャンが喜んでいます。
新たなビジネスモデルで不遇だった彼らをスターにできるのなら、それは立派な社会貢献だと私は思います。社会に貢献しないビジネスは長続きしません。なぜなら、自分の欲を満たすためのビジネスは、いつか欲望が途絶えてしまえば終わりだからです。人のため社会のためだと思えばこそ、困難も乗り越えられますし、世の中をもっと良くしたいという欲も出てきます。私は「俺の~」のビジネスをさらに発展させて、次の1年ほどで、シェフたちにいまの倍の報酬を支払えるようにしたいと考えています。ニューヨークにも進出して世界で闘うチャンスも与えたいですし、次の経営者も育てたい。幸せにしたい人の数が増えるほど、私のビジネス計画も大きくなっています。
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更新:11月22日 00:05