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自然と片づく仕組みを作る、タニタのオフィス整理術

2016年11月15日 公開
2023年05月16日 更新

谷田千里(タニタ代表取締役社長)

 

整理そのものを目的にしてはならない

だが社員にしてみれば、いきなり上から「モノを減らせ」と言われても、戸惑いや反発のほうが大きいはず。モノを減らす改革に取り組む企業は多いが、うまくいかないケースも少なくないのは、社員の理解を得るのがそれだけ難しいからだ。だが、谷田氏が社内に発信したメッセージは意外なものだった。

「社員には、『将来、皆さんが自宅でも仕事ができるようにするために、改革を受け入れてほしい』と伝えました。なぜ会社に来なければ仕事ができないかと言えば、必要な書類やモノがすべてオフィスに置いてあるからです。でも、モノを最小限に減らし、ペーパーレス化を進めれば、パソコンやタブレット一台でどこでも仕事ができます。

私が在宅勤務の実現について真剣に考えるようになったのは、社長就任後に2名の社員が退職したのがきっかけでした。私は自分のマネジメントに問題があったのかと思い、その社員たちに『自分に悪いところがあったら改めたいので、辞める理由を正直に教えてほしい』と頼んだのです。すると2人とも、親の介護が理由だと打ち明けました。家で親の面倒を見ながら、オフィスまで毎日通うのは難しいと言うのです。

これにはショックを受け、『こんな形で社員を失うのは耐えられない』と思いました。それで、社員が在宅でも仕事ができる環境を作ろうと決心したのです。

私は経営者として、社員が育児や介護で会社に来られないことがあるなら、『どうぞ家で仕事をしてください』とOKを出したい。つまり、目指す目標は在宅勤務を可能にすることであり、その手段として、自分のモノはこのロッカーに入る量に収めてほしい。そう言って社員を説得したのです。単に『モノを減らせ』『整理しろ』と命令するだけでは、協力してもらえなかったでしょう」

つまり、整理そのものを目的化しても、たいていの人はなかなか実践できないし、長続きもしないということだ。

「ダイエットも同じですよね。体重を減らすことを目的にしても続かない。その先に『おしゃれな洋服が着たい』『カッコ良くなって異性にモテたい』といった楽しい目標があるからこそ、『運動は嫌いだけど頑張ってみよう』『甘いものを食べたいけれど我慢しよう』と思える。『会社をきれいにするため』と言われてもなかなか動く気になりませんが、『自分の将来のため』と思えば、やってみようと思うものです」

 

紙を減らすためには上司の意識改革が必須

改革が成功した理由は、もう一つある。それは経営トップが思いきった投資をし、改革への本気度を示したことだ。

「まずは、紙の書類を減らすことが必須でした。そこで社員に一人一台ずつ、タブレットのSurfaceを支給しました。今は5万円程度で買えるタブレットもありますが、あえて一台あたり15万円のものを選びました。以前の弊社はIT投資が少なかったという反省もあり、お金をかけることにためらいはありませんでしたね。

それに大きな投資をすれば、社員たちに『タブレットをちゃんと活用してくれないと、お金をかけた意味がないじゃないか』と文句を言えますから(笑)。

ただ、紙からデジタルへの移行には、ある程度の時間が必要でした。紙に慣れた上司の世代ほど、どうしてもプリントアウトした資料を欲しがる。若手のほうが、『Google Driveでシェアできるのに、どうしてわざわざ印刷するんですか?』と手厳しいですよ。それに影響されて、上司たちの意識もかなり変化しつつあります。今では、会議で紙の資料を配ることはほとんどありません。資料は事前にGoogle Driveかメールで共有し、会議中はタブレットで見るだけ。営業も当初は従来のやり方をなかなか変えられず、お客様を訪問する際に紙をたくさん持って行っていましたが、最近になってようやくタブレットひとつで商談を進めるようになりました。私も営業に同行するたび、紙を使っているのを横目で見ていたのですが、こうした光景が見られるようになったので、社員たちが変わるのを待った甲斐がありました」

 

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著者紹介

谷田千里(たにだ・せんり)

〔株〕タニタ代表取締役社長

1972年、大阪府生まれ。93年、調理師専門学校卒業後、佐賀短期大学(現・西九州大学短期大学部)食物栄養学科に進学。97年、佐賀大学理工学部卒業。船井総合研究所などを経て、2001年に〔株〕タニタ入社。05年、タニタアメリカ取締役。08年5月より現職。

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