2016年09月27日 公開
2023年05月16日 更新
貯蓄型保険を短期で解約する場合、払った保険料を大幅に下回る金額しか戻ってきません。契約初期に多額の手数料が発生することが要因です。そのため多くの人は、解約したくなっても、「せめて返戻率が100%くらいになるまで待とう」と考えがちです。
お気持ちはわかるつもりです。しかし、私は「お金の流れ」を考えてほしいと思います。過去に発生した手数料は代理店の口座などに入ってしまい、あなたのもとには戻りません。また、繰り返しになりますが、将来のお金の価値は割り引いて評価しなければなりません。「将来の100%は必ず100%未満」なのです。
「この先、感心しない契約に注ぎ込んだお金と時間が一番少ないのは、今日なのだ」と判断してほしいと思います。
運用目的で案内される保険の一種に変額保険があります。変額保険の保険料は他の保険とは区分して株などで運用され、その運用成績によって保険金や解約返戻金の額が変動します(保険金には最低保証があります)。一般の貯蓄型保険商品は固定金利で、あらかじめ返戻金額が決まっているのに対し、変額保険では好況時などに高いリターンが望めることが魅力だとされています。また、市況に連動した成果が見込めるため、インフレにも強いと説明されます。
しかし、変額保険を販売しているある保険会社の資料を確認すると、年7%の運用実績が10年続くという楽観的なシミュレーションでも、解約返戻金はそれまでに払う保険料総額を下回ったままです。ということは、契約後10年に限っても、運用に回らない諸経費が7%超の割合で発生する仕組みだと考えられます。インフレに対応できる可能性を云々する以前に、コストが高すぎて運用には向かないと断じていいはずです。インフレリスクに備えたい向きは、手数料が1%未満の投資信託を買うほうが賢明でしょう。
かけ捨ての保険を利用する際、保険会社選びにさほどこだわる必要はありません。同じ保障内容であれば、認知度が低い会社の保険であっても、安い保険料で、大きな保障が得られる保険会社を選ぶといいでしょう。保険の価値は、つまるところ、保険料と保険金の差額の大きさにあるからです。
中には「大手でないと不安」という人もいるかもしれませんが、大手の商品は高額であることが多いのも事実。また、保険会社が経営破綻した場合の影響も、かけ捨ての保険においては少ないと見られます。貯蓄性がある保険と違って、積立・運用に回るお金が少ないため、保険会社のキャッシュフローを圧迫しないからです。保険会社は、保険料の安さで決めていいのです。
保険は万が一のときに備えて利用するべきものです。では、万が一のことが起きたときに支給される保険金の額は、どの程度に設定しておくのが妥当なのでしょうか。
こればかりは他人に決められることではありません。家族構成、ローンの有無、配偶者の収入、現在の貯蓄額、生活水準、子供の教育方針などによって違ってきます。正解があるとしても個人差が大きいだろう、と考えるのが自然です。
時に、営業マンなどに「いくら必要ですか? 皆、どうしていますか?」と尋ねる人もいますが、相手は高額契約になるほど潤うのですから、極力、高く見積もる可能性が疑われます。
自分や家族の人生に必要なお金の額は、何より自分で考えてみることが重要です。
現在、加入している保険の見直しを行なう際には、誰に相談すればいいのでしょうか。
最近は「保険の無料相談」ができる来店型保険ショップの認知度も高くなっています。しかし、彼らは保険会社の代理店です。相談が無料である限り、店舗の維持費などは保険の販売手数料で得るしかありません。顧客の保険料負担が増えるほど収益が上がるビジネスモデルなのです。
必要最小限の保険を活用をしたい人は、私自身もそれを生業としているので手前味噌になりますが、有料で相談を受けている人にアドバイスを求めることです。検索サイトで「生命保険 有料 相談」などと打ち込むとヒットします。
ただし、有料相談と代理店を兼業している人もいます。利益相反の可能性を極力排除するため、保険販売を行なっていない人に相談することをお勧めします。
《取材・構成:長谷川 敦》
《『THE21』2016年9月号より》
更新:11月22日 00:05