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【今週の「気になる本」】『ハングルの誕生』

2016年08月12日 公開

野間秀樹著/平凡社新書

形なき言語(音声)に形(文字)を与えるとは、どういうことか?

 たまに誤解をしている方がいるのですが、「ハングル」というのは韓国語や朝鮮語と呼ばれる言語(以下、本書に倣って、便宜的に「朝鮮語」と呼びます)を書くために使う文字のことであって、言語のことではありません。なので、本書は朝鮮語の解説本ではなく、その文字についての本。しかも、驚くべきことに、朝鮮語を知らなくても読むのにほとんど支障がない本です。

 少し詳しい方なら、「ハングルの誕生」というタイトルから「パスパ文字との関係なんかについて論じているのか」と想像されるかもしれませんが、それもまた違う。形のない言語(音声)というものに、文字という形を与えるとは、いったいどういうことなのか? という非常に射程の長いテーマを論じています。文字を愛する読書人の皆様の知的好奇心を掻き立てること請け合いの内容です。

 それとともに、ハングルが朝鮮半島の人びとの愛国心と強く結びついていることも、本書を一読してなんとなくわかるような気がしました。ハングルは朝鮮語を記述するにはこの上ないほど合理的なシステムを持っています。それを、朝鮮人=韓国人自身の手で、朝鮮王朝(李氏朝鮮)第4代国王・世宗の治世に発明した。この発明の偉大さは、朝鮮語話者なら深く実感できるところなのでしょう。しかも、ハングルの発明は、その当初から、中華文明に対して反旗を翻すという愛国的な意味を持っていました。

 言語学の普遍性と朝鮮=韓国の文化史の断片とを同時に楽しめる名著。夏休みのお伴にいかがでしょうか。

 

執筆:S.K(「人文・社会」担当)

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