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「経営戦略史」で必ず知っておくべき8人(確立篇)

2016年07月22日 公開
2022年12月08日 更新

三谷宏治(金沢工業大学虎ノ門大学院教授)

知る人ぞ知る「経営戦略の真の父」とは?

もう一人、ぜひ知っておいてもらいたいのがイゴール・アンゾフ。彼こそが「経営戦略の真の父」なのです。以降登場する戦略コンセプトは、ポーターにしても、クリステンセンにしても、『ブルー・オーシャン戦略』にしても、すべてのその原型はアンゾフにあると言っても過言ではありません。

そんな重要な人物なのに、知られているのは「アンゾフ・マトリクス」くらい。これは企業戦略、特に多角化を考えるためのツールでとても有用ですが、彼の論のごく一部にすぎません。

マンガでもアンゾフは「知られてないけどね」とつぶやいています。かくいう私も、「ギャップ分析」「シナジー」といった今でもよく使われるビジネス用語が彼によるものだったとは、最近まで知りませんでした。ごめんなさい。

その2
イゴール・アンゾフ(1918 -2002)

ロシアからアメリカへの移民。数学と物理学の修士号、応用数学の博士号を持ち、実業界で華々しい実績を上げた後、45歳で学術界に転向した。その当時、相次ぐ規制緩和による企業買収が相次ぎ、欧州経済共同体の成立によりヨーロッパが巨大市場として立ち上がってくるなど、市場がどんどん複雑化していった。そんな中、企業はどのように戦略を立てるべきかを説いた『企業戦略論』を発刊。企業としての意思決定を「3つの階層(ストラテジー、ストラクチャー、システム)で、将来と今のギャップを捉え、事業群全体の方向性を示す」ことだと唱えた。

 

ポジショニングか?ケイパビリティか?

経営戦略論の歴史は複雑ですが、単純に言ってしまえば、「ポジショニング派」と「ケイパビリティ派」の戦いです。ポジショニング派は「重要なのは外部環境。儲かる市場で儲かる立場を占めれば勝てる」と言い、一方ケイパビリティ派は「大切なのは内部環境。自社の強みがあるところで戦えば勝てる」と言います。1960年代から80年代はポジショニング派が優勢、それ以降はケイパビリティ派が優勢、といったところでしょうか。

ポジショニング派で知っておくべきは、やはりマイケル・ポーターでしょう。まさにポジショニング派のチャンピオン。「儲けられる市場」を選び、競合に対して「儲かる位置取り」をしていないと、どんなにケイパビリティを磨いても無駄だと説きました。マンガ版で彼はかなり強面な人物として描かれています。マンガ的なデフォルメも入っていますが、実際、ハーバード・ビジネススクール(HBS)の古株の教授陣を駆逐し、我が城としています。

その3
マイケル・ポーター(1947 - )

プリンストン大学で航空工学を学び、ハーバード・ビジネススクールを経て、ハーバード大学経済学部で博士号を取得。その際の博士論文「ファイブ・フォース(5力)分析」が話題になり、以後、その名声を高めていく。ポーターはポジショニングを重視し、儲けられる市場を選び、かつ競合に対して「儲かる位置取り」をしていないと、どんなに努力してケイパビリティを磨いても無駄と説く。そして、「究極、自分たちは何で戦うのか、どんなポジションを目指すのかを明確にする」(トレードオフ)ことを迫った。

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著者紹介

三谷宏治(みたに・こうじ)

K.I.T.〔金沢工業大学〕虎ノ門大学院教授

1964年大阪生まれ、福井育ち。東京大学理学部物理学科卒業後、外資系コンサルティング会社に就職。以来19年半、ボストンコンサルティング グループ、アクセンチュアで戦略コンサルタントとして働く。2003年から06年までアクセンチュア 戦略グループ統括。途中、INSEAD(仏フォンテーヌブロー校)で経営学修士(MBA)修了。
仕事と並行して28歳頃から社会人教育に携わり始め、32歳からグロービスで「経営戦略」などの講師を務める。06年から教育の世界に転じ、地元小学校でのPTA会長などを経て、07年からK.I.T.(金沢工業大学)虎ノ門大学院教授を務める。同時に、「決める力」「発想力」と「生きる力」をテーマにした授業や講演で全国を飛び回る。年間7,000人以上の社会人・子ども・保護者・教員に接している。現在K.I.T. 虎ノ門大学院教授の他に、早稲田大学ビジネススクール客員教授、グロービス経営大学院 客員教授、放課後NPOアフタースクール 理事、NPO法人3keys理事、永平寺ふるさと大使を務める。

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