2016年07月22日 公開
2022年12月08日 更新
400ページを超えるその「厚さ」にもかかわらずベストセラーとなった三谷宏治氏の『経営戦略全史』。難解な経営戦略論が、その流れや背景・人物像とともに学ぶことで頭に入ると評判を呼んだ。各賞を受賞したその1冊が、今回『マンガ経営戦略全史』として発刊された。著者である三谷氏に本書の魅力を語っていただくとともに、経営戦略史を学ぶにあたって「これだけは必ず押さえておきたい人物」についてうかがった。
原作にあたる『経営戦略全史』を上梓したのは2013年。400ページ以上もの大著になったにもかかわらず、8万部のベストセラーとなりました。
ただ、やはり相当な厚みだったためか、私の親しい人でも、『買ったけど実はまだ読んでない』という人が結構多かった(笑)。今回はそういった人も含め、ビジネス初心者や若手向けに作っています。
マンガ化の最大の効果は読みやすさです。内容を大きく削ることはしていませんが、経営戦略がどのように発展してきたかという「流れ」をより明確に、かつ、印象的につかんでもらえると思います。
経営戦略論は決して世の中と無縁に発展してきたものではありません。ある人物の論に触発されて別の論が生まれたり、ある事件に影響を受けて、ある論が優勢になったり、下火になったりする。
たとえば経営戦略史を語るとき、まずは「科学的管理の父」と呼ばれるテイラーを取り上げ、次に「人間関係論」の始祖であるメイヨーに移るのが定番ですが、本書では、その間に自動車王ヘンリー・フォードを入れています。フォードが格安高性能なT型フォードを量産し、かつ労働者に高賃金を払い続けたからこそアメリカに「豊かな大衆」が生まれ、それがメイヨーの実験や研究につながったからです。
こういった「流れ」を理解することで記憶にも残りますし、各々の論の「意図」や「価値」がハッキリするのです。
本書には多くの人物が登場しますが、必ず押さえておいてほしい人物が何人かいます。まずはやはり、前述したテイラーでしょう。彼こそが、その後100年にわたる経営戦略全史という物語の源流だからです。
これはテイラーに限ったことではありませんが、私は本書で、それぞれの人物のバックグラウンドになるべく多く触れるようにしています。テイラーは「状況や動作、効果をちゃんと測る」という科学的管理手法を生み出しただけに、効率一辺倒の人物に思われがちです。ただ、実は彼は目の病気のためにハーバード大を中退し、機械工として現場で働いた人物。その際、管理者と労働者の強い相互不信を目の当たりにし、「誰もが幸せになれる方法」を生み出そうと考えた。その結果生まれたのが、この科学的管理手法なのです。
ただ、彼の願いはその時代には実現せず、経営者の都合のいいように使われてしまった。こうした背景を知ることで、「科学的管理手法」の本質が理解できることでしょう。
その1
フレデリック・テイラー(1856 -1915)
アメリカ・フィラデルフィア生まれ。ハーバード大学を病気で中退し、その後、現場作業者として働く。その際に目にした非効率で不信感のうずまく工場を改革したいと、生産性向上のためのさまざまな実験を敢行。「科学的管理法」を生み出した。その後35歳で独立し、多くの企業を立て直した。
テイラーの「科学的管理法」によって、作業効率が向上し、労使ともに大いに得をすることになった。だが結局、科学的管理法を経営側はひたすら労働生産性の追求のみに用い、労働者側もそれに反発。労使関係が改善されることは少なかった。
更新:11月23日 00:05