2016年04月26日 公開
世界のビジネススクールの頂点に君臨するハーバード・ビジネススクール。そこで今、日本企業および日本の経営者たちが注目を集めているという。15万部突破のベストセラー『ハーバードでいちばん人気の国・日本』の著者で、20人以上のハーバードの教授陣に取材をした佐藤智恵氏に、その理由と「ハーバードが注目している経営者は誰か」をうかがった。
「ハーバードで今、日本が人気」というのは、具体的にはどういうことなのだろうか。
「最も象徴的なのは『研修旅行』です。ハーバードの1年生は毎年春に各国への研修旅行に参加するのですが、約10カ国から選べる行先のうち、日本が真っ先に埋まってしまうそうです。
また、ハーバードの教授を取材する中で、『日本企業を題材にしたケースが人気を集めている』『今度、この日本の企業のケースを書こうと思っている』といった話が何度も出てくるのです。私がアメリカに留学していた2000~2001年当時に比べ、明らかに日本への注目が高まっている。それはなぜかと取材を続けた結果、『ハーバードでは、日本人が思っている以上に日本から学ぼうとしている』ことがわかってきたのです」
その理由の一つは、現在が「不確実性の高い時代」であることだという。
「ここ20年ばかりの間に、ITバブルの崩壊、9・11、リーマンショックと、正しいと思っていたものが瞬時に崩れ去る経験を、世界は何度もしてきました。その結果、誰もが目指す『成功モデル』がなくなり、確実なものとしての『歴史』に注目が集まっています。世界最古の企業を含め江戸時代から続く企業が3000社以上あるうえ、世界に先駆けて『金融危機』『少子高齢化』などの問題に直面している日本は、その意味で最高の教材なのです」
「日本人はリーダーシップに欠ける」とよく言われる。だが、ハーバードでは日本人経営者、とくに戦後の高度経済成長をけん引したリーダーたちが高く評価されているという。
「ハーバードでは創業者が非常に尊敬されます。中でもトヨタ自動車の豊田喜一郎氏やパナソニックの松下幸之助氏、ソニーの盛田昭夫氏、オムロンの立石一真氏、京セラの稲盛和夫氏などは教授陣にもよく知られています。ただ、戦後の日本人経営者で圧倒的に有名なのは、本田技研工業創業者、本田宗一郎氏です。なぜなら長年、必修授業で教えられているからです。
ご存じのとおり、ビジネススクールの授業は『ケース』と呼ばれる事例をもとに進められます。トップが重要な決断をする直前の状況が説明され、学生は『自分だったらどんな決断を下すか』を考え、議論します。ケースは無数にありますが、ホンダのケースは数十年にわたり必修科目に取り上げられていて、毎年900人を超える学生が、学んでいるのです」
このケースの内容は、オートバイでアメリカに進出したホンダが、1970年代になぜ成功できたかを分析したもの。欧米的なトップダウンの「意図的戦略」と、日本的なボトムアップの「創発的戦略」を学ぶことができる優れたケースだという。
「本田宗一郎氏のことが今も教えられている理由は、何よりも本田氏がアメリカで大成功した人物だからです。また、教材の中には『外国人のお客さんと飲み明かした挙句、その外国人が便所に落とした入れ歯を裸になって探した』『芸者相手にどんちゃん騒ぎをして泥酔し、生意気なことを言った芸者を二階から放り投げた』など、とんでもないエピソードも紹介されています。総じて真面目な印象のある日本人経営者だけに、より強く印象に残るようです。
実は以前からよくハーバードの教授陣から、『ホンダは最近どうなの?』などと聞かれて不思議に思っていましたが、理由がわかりました。必修で何十年も教えられているからなんだ、と」
更新:11月10日 00:05