2016年04月26日 公開
また、「経営者」というくくりには入らないが、ハーバードでケース化され、注目を集めている二人の人物がいるという。
「一人は、『新幹線のお掃除』で知られるテッセイ(JR東日本テクノハートTESSEI)の元取締役である矢部輝夫氏。華やかな衣装をまとい、ホームに入ってくる新幹線を一礼して迎えると、1両たった7分でスミからスミまで磨き上げる『新幹線劇場』で有名になった会社です。矢部氏は、清掃員たちの『自分たちの仕事はどうせ清掃』という意識を変え、人の役に立つことのすばらしさを説くことで社員のモチベーションを高めました。階層社会で育ち、清掃の仕事なんて自分には縁がない、と考える欧米の学生は、そのことにとりわけ驚くようです」
もう一人が、震災時に東京電力・福島第二原子力発電所の所長だった増田尚宏氏だ。
「大惨事となった福島第一原発に対し、間一髪で食い止めた福島第二原発の事例は、あまり知られていません。先が読めない状況の中で、現場に留まって大惨事を防いだ増田氏のリーダーシップは、現場型リーダーの理想の姿として、多くの学生やエグゼクティブに驚きをもって受け止められているようです」
ハーバードで注目される人物たちに共通しているのは、日本人の特質である真面目さや謙虚さ、そして「公のため」「人のため」という精神が見直されていると佐藤氏は指摘する。
「9・11やリーマンショックを経て、アメリカでも『お金よりも大切なことがある』という発想が広がりつつあります。渋沢栄一氏や松下幸之助氏、稲盛和夫氏などに代表される、お金よりも『世の中のためを考えるべき』という発想が再評価されつつあるのです。
バブル崩壊後、日本はずっと停滞し、その原因として『旧来型の日本的経営が間違っていた』と考える人もいるかと思います。ですが、アメリカではむしろ、そんな日本人経営者のリーダーシップが見直されている。このことに、とくに日本の高度経済成長を支えてきたシニア世代の方は、もっと自信を持っていいと思います」
(『THE21』2016年4月号より)
更新:11月13日 00:05