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「優等生社員のワナ」第3回 できる人はあえて「調整しない」

2016年05月09日 公開
2023年05月16日 更新

柴田昌治(スコラ・コンサルトプロセスデザイナー代表)

外から来た人だけが「変なにおい」に気づける

とはいえ、そう簡単に異動希望が通るとは限りません。それでも、常に「全体をどう定義するか」を考え続ける努力はできるはず。その際に必要なのは、情報です。他部門や社外の動きに関心を持ち、社内外を問わずさまざまな人と積極的に関わるようにしてください。個人的なつきあいを通して得られるインフォーマルな情報こそが、最も重要だからです。

みなさんも、よその部屋に入った瞬間、「変なにおいがする」と感じたのに、しばらくすると慣れてしまい、何も感じなくなった経験があると思います。一つの部門にずっといるというのは、まさにこれと同じ。外から見れば明らかにおかしいのに、中にいる人は何も違和感を抱かないのです。「この部門のやり方はおかしいんじゃないか」といった発見は、外から入ってきた人だからこそできるのです。

もちろん、まったく新しい別の部門で新たなキャリアを築くのは簡単ではありません。問題点を指摘しても最初は、「これがうちの常識だから」などと言われることでしょう。中でも一番苦労するのは課長クラス。マネジメントに徹することができる部長クラスと違い、自らもプレイヤーとして働かなくてはならないからです。

勝負は最初の1カ月です。ここで必死に努力して、仕事の全体像や流れを把握する。その際、「周りに弱みを見せたくない」と構える必要はありません。わからないことは素直に教えを請いましょう。必死に努力する姿勢を見せれば、部下はその姿勢に尊敬の念を抱くものです。カーナビを使うと道を覚えられなくなるように、ラクをすればするほど、人間の能力は低下します。とくに40代に入ると、なんの努力もしなければ機能は衰える一方。あえて大変な道を選ぶことが、自分を成長させるチャンスだと考えてください。

 

「調整」するのではなく「対立」をマネジメントする

「できる社員」の最後のワナが、「調整能力がある」です。確かに以前は、関係各所を調整し、混乱を回避することこそが、組織にとって重要でした。しかし、混乱のない組織は進化しません。ここで言う『混乱』とは、敵対的な対立ではなく、互いへの信頼や安心感をつくりながらの意見のぶつけ合いであり、生産的な話し合いだと理解してください。

ここでリーダーに期待されるのが、『混乱をマネジメントする力』です。対立を調整するのではなく、対立から生まれた火花をさらに燃焼させ、そこからお互いへの信頼感を醸成していく。それを上手にコントロールする力です。一見、難しそうですが、その基本は極めてシンプルです。それは「まず、相手の意見を聞く」こと。自分が主張する前に、相手の意見を引き出す。そのうえで、自分の主張が入り込む隙間を見つけるのです。

日本人は議論に慣れていないこともあり、自分の言いたいことが整理できていない状態で、適当なことを言ってしまいがちです。だから、次第に感情的になってしまうのです。相手の話を聞きつつ、「それはこういうことですか?」と質問を挟みながら、相手が本当に言いたいことを明確にする作業が欠かせません。

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「責任が曖昧なこと」が最大の問題 >

著者紹介

柴田昌治(しばた・まさはる)

スコラ・コンサルト プロセスデザイナー代表

1979年、東京大学大学院教育学研究科博士課程修了。
1986年に、日本企業の風土・体質改革を支援するためスコラ・コンサルトを設立。これまでに延べ800社以上を支援し、文化や風土といった人のありようの面から企業変革に取り組む「プロセスデザイン」という手法を結実させた。社員が主体的に人と協力し合っていきいきと働ける会社をめざし、社員を主役にする「スポンサーシップ経営」を提唱、支援している。2009年にはシンガポールに会社を設立。
著書に、『なぜ会社は変われないのか』『なぜ社員はやる気をなくしているのか』『考え抜く社員を増やせ!』『どうやって社員が会社を変えたのか(共著)』(以上、日本経済新聞出版社)、『成果を出す会社はどう考えどう動くのか』(日経BP社)などがある。

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