2016年03月10日 公開
2023年05月16日 更新
「決断が速い」「処理能力が高い」「気が利く」「調整能力がある」……誰もが「できるビジネスマンの条件」として思い浮かべるこれらの能力。だが、それだけに頼っていると、むしろ組織を弱体化させるリスクとなる。こう話すのは、組織の風土改革の第一人者として知られる柴田昌治氏だ。従来型の「できる人」から脱却し、自分と組織を強くするにはどうすればいいのか。短期集中連載でうかがった。
とある企業のオフィス。深夜になっても仕事を続けているのは、つい先日、昇進を果たしたばかりの営業課長だ。役員や部長からはしょっちゅう呼び出され、率いる部下の数も増え、上からも下からも仕事がどんどん飛んでくる。それをさばくため、毎日遅くまで残業し、終わらなければ仕事を家に持ち帰り、必要とあれば休日出勤もいとわない。
さすがに最近は心身ともに疲労が溜まっているのを感じる。だが口では「仕事が多すぎる」と不満や愚痴を言いつつも、内心では実のところこう思っている。「会社のために頑張っている自分は嫌いじゃない。自分は優秀な社員なんだ」……。
「まさに自分のことだ」と思った方も少なくないと思います。そして、そう思われた方はきっと、「自分は会社に貢献している」という自負も、多かれ少なかれ持っているはずです。
確かに従来の日本企業では、このような「大量の仕事をさばくことができる人=処理能力の高い人」が「できる人」として評価されてきました。しかし、最近では、その常識が通用しなくなってきています。
もちろん、処理能力が高いこと自体は、悪いことではありません。ただ、目の前の仕事を右から左へと「さばく」働き方ばかりが身についてしまうと、本人も会社も気づかないうちに「ワナ」に陥ってしまうからです。
その最も大きな弊害が、意味や目的・価値などを「考える習慣」の欠如です。上司や顧客から降ってくる仕事をただ素早くさばいていくだけで、「そもそもこの仕事にはどういう意味があるのか?」という本質的な問いかけを忘れて、流れ作業的に業務をこなす。これは、言い方を変えれば、「上司から指示されたことはやるが、それ以上のことは何もやらない」という働き方に通じるのです。
新入社員ならまだしも、組織を率いる管理職が意味も考えずに仕事をしたらどうなるか。私が実際に目にした、ある企業の事例をご紹介しましょう。
その会社では、ビジネス環境の変化に伴い経営戦略を見直すことになり、人事部門でも「働き方を改革し、ダイバーシティを推進する」という戦略が立てられました。それをきっかけに、人事部門のある若い女性社員が「育児と仕事を両立する社員が集まり、環境改善について話し合う場を作りたい」と上司に提案したのです。本来なら上司は「改革のために、新しいことに挑戦する人」を応援するのが当然でしょう。ところが、「余計なこと」と、彼女の提案を却下してしまったのです。
実はこの上司も、典型的な従来型の「できる人」でした。上から降りて来た戦略や方針をそのまま実行することは得意でも、「そもそも、この仕事はなんのためにやるのか?」を考えたことがない。だから、部下が新しいことに挑戦しようとしても、その意味や価値を考える前に、「上から指示されたことでない」と機械的に却下してしまったのです。
一番怖いのは、本人にはまったく悪気がないことです。それどころか「自分は会社に貢献している」と信じて疑わない。つまり、知らず知らずのうちに、自分が抵抗勢力になってしまっているのです。
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更新:11月24日 00:05