2016年03月29日 公開
最初の大きな転機が訪れたのは30歳のとき。相方の光浦さんが出演している番組『めちゃ×2イケてるッ!』にレギュラー出演が決まったのだ。
「本当にありがたいことに、一流の作家、一流のスタッフ、一流の演者にお膳立てをしてもらえる環境でした。『OLの大久保さん』というキャラを周りが作ってくれて、そのキャラに乗っかっていくうちに、徐々に他の仕事も増えていった、という感じです。だから、私のスキルが上がったから売れたというわけではなかったんです。お膳立てのない他の番組に出て、『やっぱり何もできない……』って思い知らされたりもしました。
そこで、出演する番組一つひとつを大切にして、かなりエネルギーをかけて臨みました。『この番組では、自分は何を求められているんだろう?』というのを、一生懸命探していましたね。今、私を多く使っていただいているのは、求められていることを『尻軽』にやれるからなんだと思います。自分で言うのもなんですが(笑)」
その姿勢は今も変わらない。若い女性タレントが共演する番組ではお局的な物言いをして、イケメンがいるときはセクハラ的な発言をする。何を求められているのかわからないときは、スタッフに尋ねることもある。
「本当に自分の実力がついてきたと思うのは40代になってから。仕事がまた一段と増えた、ここ4~5年です。経験が一番大事ですね。
もちろん、失敗はいまだにしますよ。うまくタイミングをつかめなかったり、トークが滑ったり、とっさにうまく返せなかったりして、落ち込むことはあります。そんなときは、次の仕事で取り戻すしかありません。お酒は好きですけど、お酒では解消できません」
40代ともなるともう「ベテラン」だ。求められることに応えるばかりでは、不満が溜まったり、「これでいいのか?」と悩んだりしそうなものだが、大久保さんは「そうしたプライドは邪魔」と割り切る。
「たまに本当の自分がわからなくなることもありますね。本当の私は番組に出ているときほど毒を吐きませんし、思ったことも口にしません。物事への関心が薄いから、そもそも何も思わないくらいです(笑)。
嫌いでもない人に噛みついたり、男性に痴漢まがいのことをしたりするのがつらくなるときってあるんですよ。女性芸人なら。でも、私の場合は自分を客観視しているところがあって、『プライドが邪魔してそういうことができない自分って見苦しいな』と思うんです」
自分を客観視する習慣は、会社勤めをしていた経験と関係があるようだ。
「コールセンターでオペレーターの仕事をしていたので、ときにはクレームを受けることもありました。電話ですから、クレームを言ってくる相手に対して『申し訳ございません』と口では言っていても、そんな自分を引いて見ている自分もいる。会社員の方ならわかると思いますけど」
芸人として売れてくると、楽屋にスタッフや共演者がどんどん来るようになった。そんなときも自分を客観視して、「これで驕っちゃダメだな」と思ったそうだ。
大久保さんは2010年に会社を辞め、13年に「最もブレイクした芸人」に選ばれた。41歳のときだ。
「30代よりも、40代になってからのほうが、バラエティー的には面白がられるようになりましたね。結婚もしていなくて、『黙れ、ババア』ってみんながイジりやすくなりましたから。それに対して私も、『しょうがないじゃない、関節が痛いんだから』と、よりキャラが立った返しができるようになりました」
世間では弱点とされやすい年齢や独身であることなどをありのまま受け入れ、それを武器にする。だから、40代になって、その武器がますます力を増してきたのだろう。しかし、それはもともと自分が求めていたあり方なのだろうか。
「学生だったときに漫才ブームがあって、私はお笑いが大好きなんです。でも、『あの人みたいになりたい』とか、『こういう芸人になりたい』という目標みたいなものはありません。自分とはまったく違う存在として、清水ミチコさんへの憧れはありますが。
バラエティーでは、前のめりになって、『よし、これを言ってやる!』と思っているとスベることが多い。それよりも、流れに乗っかって、ヘラヘラとゆるく構えているほうがウケるんです。同じように、目標を立てるのではなく、その場その場に対応していくのが、私にとっての成果を出す方法ですね」
今は、日々、仕事に追われる生活だが、これから先も同じように自分が求められるのか、不安もあるという。だが、スタンスは変わらない。
「笑っている間って、幸せじゃないですか。笑って、『ああ、良い時間を過ごしたな』と思えば、明日から『頑張ろう』ってなると思うんですよ。そういう時間を与えられることって、すごいと思います。下手なプライドは持たず、『このおばちゃん、いつもヘラヘラしてて楽しそう』と思われたりとか、『ダメなババアだな』って突っ込まれたりするような人になれたらいいですね」
《取材・構成:西澤まどか 写真撮影:まるやゆういち》
《『THE21』2016年3月号より》
更新:11月25日 00:05