2015年12月10日 公開
2023年02月01日 更新
業務の絞り込みによる「簡素化」と、会議室をなくして情報の共有を図る「透明化」を進めてきた松本氏。これに「分権化」を加えた3本柱が、カルビー経営の軸だと語る。
「分権化とは、すなわち権限委譲です。私は会長に就任した翌日、社長にすべての権限を委譲しました。同じように、社長は役員へ、役員は部課長へと、どんどん下に権限委譲をしています。すると、委譲された側には、やりがいと責任感が芽生えます。
何人もが書類にハンコを捺すのでは、誰に責任があるのかわからなくなる。責任の所在を明確にし、その人に一任することが必要なのです」
しかし、責任を負うとなると、失敗のリスクを恐れる社員もいるのではないだろうか。
「失敗はどんどんすべし、と伝えています。課長が失敗して潰れた会社なんてありませんよ。それよりも、彼らが失敗から学んで成長し、自分の頭で考えられるようになることが重要。
以前のカルビーでは、創業家の経営のもと、社員は自分の頭でそれほど考える必要がありませんでした。だから今は、権限委譲をすることで、自分で考えるトレーニングをしているところです」
失敗はしてもいい。アイデアはどんどん実行するべき。ただし、「工夫」をしないで実行すれば、失敗は目に見えていると松本氏は言う。
「カルビーには優れた商品が数多くあるうえに、良い企画もたくさん出ます。しかし、工夫をすることなく、即座に市場に出してしまっていたがゆえに、うまくいっていないものがあったのです」
その一例が、最近人気を集めている『フルグラ』だ。1991年に『フルーツグラノーラ』という商品名で発売されたこの商品は、長年、売上げが振るわなかった。
「食べてみると美味しいんです。そこで、私はどうすれば売れるかを考え、いくつも仮説を立てました。その仮説に基づいて売り方を改善しました。これが『工夫』です。
まず、親しみやすい短い商品名にするため、『フルグラ』に改名。そして、働く女性に訴求するため、忙しい朝の時間に簡単に食べられる『時短』というメリットを強調。それが定着したら、今度は中高年層に向けて、塩分が少ないというヘルシーさを打ち出しました。そうした工夫の結果、売上げが年々大きく伸びています」
『フルグラ』は、本来、売れて当然だったと松本氏は語る。それができなかった理由は、工夫というプロセスをスキップしてしまっていたことと、失敗の理由を考えずに早々に諦めていたことだった。
「進むときも退くときも、いったん踏み留まって考える。この段階を急いではいけません。
世に出す前に、まず工夫。世に出して失敗すれば、また工夫。ここで求められるのはスピードではなく、緻密で丁寧な思考です。
不要な仕事を排除してスピードを上げることで、こうした『しなくてはならない仕事』に時間を使えるようにもなります。それが、成長と成果を生む秘訣と言えるでしょう」
《取材・構成:林 加愛 写真撮影:永井 浩》
《『THE21』2016年1月号より》
更新:11月28日 00:05