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アイリスオーヤマ・大山健太郎社長の「即断即決」仕事術

2015年01月06日 公開
2023年01月30日 更新

大山健太郎(アイリスオーヤマ社長)

『THE21』2015年1月号より》

<取材・構成:林 加愛/写真撮影:長谷川博一>

徹底した「即断即決」が人と組織を強くする


斬新な商品を次々と生み出せる理由とは?

 朝礼は5分。報告は簡潔第一。ミーティングは立つたまま済ませる――アイリスオーヤマ㈱で行なわれる仕事は万事、「迅速さ」をモットーとしている。

 そんな同社を率いる大山健太郎社長もまた「即断即決」の人だ。膨大な案件を即時処理し、躊躇なく決断する。

 「迅速さを第一とするのは、日々移り変わる消費者ニーズに素早く応えていくためです。時代や生活環境の変化、それに伴う消費者心理の動きを敏感につかみ、すぐに対応することが必要なのです」

 1958年に下請けの町工場から始まった同社は、今では1万5千種類以上の製品を扱い、国内外合わせて23の工場拠点を持つグローバル企業グループに成長。プラスチック生活用品では圧倒的な国内シェアを有するほか、LED照明や家電製品など、絶えず新たな分野を開拓。業績も成長を続けている。

 「人口減少や個人消費の冷え込みが顕著なこの時代、同じ商品・同じ分野にとどまっていると先細りになるのは明らかです。我々が狙うべきチャンスは変化の中にこそある、と私は思います。変化のあるところには、必ず新たなニーズが発生する。それを素早く見極め、新たな技術と商品を携えて、打って出なくてはなりません」

 とはいえ、未知の分野への挑戦は勇気を必要とする。第一歩を踏み出せない人も多いが、なぜすぐに実行へと移せるのか。

 「我々も闇雲に飛び込んでいるわけではありません。全国にある1万8千店舗のデータが集まっているので、今何か売れているかを把握できます。それを継続的に分析すれば、次に何か売れるかも見えてくる。だからこそ、すぐに行動することができるのです」

 これらのデータを土台にしつつ次々に企画を打ち出し、年間約千点ものアイテムの新商品を生み出し続ける同社。その原動力である「社員の提案力」を喚起するしくみも万全だ。

 「当社には、売上げ全体の中に占める『新商品の売上げ』の比率を5割にせよ、という決まりがあります。ロングセラーにばかり頼っていると、進歩がなくいずれ会社が衰退してしまいますから。立ち止まることができない仕組みになっているのです」

 その一方で、無用な不安を抱かせない工夫もしている。

 「チャレンジしなくてはならないときに足が止まるのは、失敗を警戒するからです。成果を出せなかったことで責任を負うのは誰しも怖いものですから。しかし当社では、私が判をついてゴーサインを出したものなら、そこからは会社が責任を負う、という考え方をします。売れると見て決裁した以上、リスクは私が負う。すると提案者は自信を持って商品化に向けて動ける。守りに入ることなく、果敢にアイデアを表明できるのです」

 

「即決」の基盤となる徹底的なユーザー視点

 このシステムのもと、アイデアは滞ることなくふんだんに生み出される。毎週行なわれる新商品企画会議に提出される案件は60件超。その1つひとつを大山氏はわずかな時間で吟味し、判断を下す。

 「即断即決のポイントは、『問題発見力』です。ユーザーの感じる不便や不満、つまり『潜在ニーズ』を提案者が正しく読み取っているか。そのニーズは多数の人が感じているものかどうか。それを判断する私自身が問題発見力を常に研ぎ澄ませていなければ、この場面でスピーディに決裁することは不可能です」

 問題発見力を磨くには、徹底的にユーザーの視点に立つことが不可欠だという。

 「商品開発に携わる者は、自分のアイデアに愛着を持つものです。それは当然のことですし、そうあるべきとも言えますが、『プロダクトアウト』の視点、作り手優先の意識にとらわれる原因にもなります。ですから、そうした提案者に対して、私は常にエンドユーザーの視点、『ユーザーイン』の意識で臨みます。『君の奥さんなら、その商品を買うか?』と問いかけていくのです。この視点を持つことこそ、実は速やかな意思決定や判断の決め手になります。

 当社では価格決定においてもそれを活かしています。メーカーは通常、原料代や加工費を計算して原価を割り出すことから価格設定を始めますが、当社では先に『いくらなら売れるか』を考えて価格を設定します。ユーザーにとって商品の原価など関係ありません。消費者の納得のいく価格=『値ごろ価格』はどのくらいか、から考えるべきなのです」

 そのためには、中長期的な視点から物事を見て決断する必要も出てくる。すると、目先の効率だけを優先した場合とは逆の判断になることもある。

 「私は大阪育ちで、無駄が大嫌い(笑)。だからすべてにおいてスピード感や効率を重視していますが、一見して無駄に見えることでも、顧客目線の考え方に立てば無駄ではないことがあります。たとえば、来社されたお客様には必ず挨拶をするよう指導していることもその1つ。その間仕事の手が止まるわけですから、生産性だけを考えると明らかに無駄です。しかし、そうすることで好印象を持っていただき、当社のファンになってもらうメリットのほうがはるかに大きいでしょう」

 この考え方を強く反映しているのが、同社の商品を扱う小売店に派遣される「SAS」(セールス・エイド・スタッフ)という販売支援スタッフの存在だ。

 「SASは商品知識、接客スキル、派遣先の店舗についての知識も持ち合わせた精鋭です。その彼らを、私たちは無償で小売店に派遣しています。これも一見、大いなる無駄に見えるでしょう。しかし広大な店舗で、無数の商品を前にしたお客様が何を選べばよいかわからないとき、当社商品の説明を適切に行なえる人間がそこにいることは大きな意味を持ちます。ユーザーの不便・不満を即時解決する姿勢を持つ当社の仕事には、こうした『無駄に見えて無駄ではない』ことが無数にあるのです」

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