(軍争篇)
直訳すると、「人の気力は、朝は旺盛だが、昼になるとダレ、夕方には休息を求める」という意味です。
この言葉が伝えようとしているのは、「人の士気や組織の勢いは盛衰する」ということ。つまり、勢いは長続きしにくく、また、無理に長続きさせようとすれば、人や組織を壊しかねない。したがって、勝負に勝ったりビジネスで成果を出すためには、勢いの波を見極めて、ここぞというタイミングに勢いのピークを合わせることが重要だということです。
スポーツの試合で考えるとわかりやすいでしょう。サッカーのワールドカップにおいて、日本代表が期待されながら予選リーグで敗退したことが過去に2度ありました。共通するのは、予選前の練習試合では絶好調だったこと。つまり、勢いのピークが本戦前に来てしまったのです。
こうした波は、自分たちで意図的に操作するのは簡単ではありません。ただ、大事なタイミングより早くピークを迎えてしまった場合は、勢いに乗り切らずに、抑え気味にして勢いを維持することを考えるのも一つの手でしょう。
もう1つ、人の手ではどうすることもできない波が、景気の波です。景気は良いときもあれば、悪いときもあります。景気の良いときは、いずれ悪くなることを見越して準備を怠らず、景気が悪くなったら、回復したときのために手を打っておく。一歩先の判断ができる企業は、これまでも景気の波にかかわらず生き残っています。
(始計篇)
「将軍には、知略、信用、思いやり、勇気、厳しさの五つの条件が必要だ」という意味です。
以前、エコノミストのロバート・アラン・フェルドマン氏に取材したとき、「この5つの条件は掛け算なので、1つでもゼロやマイナスなら、すべてゼロやマイナスになる」と言われました。厳しい言葉だと思いましたが、その後、多くの経営者と話すうち、確かにそのとおりだと思うようになりました。実際、勝負ごとに強い人や成功する人は、5つの要素をバランスよく持っています。逆に、バランスの悪い人は一時的に成功しても、長続きしません。
また、荻生徂徠という江戸時代の学者が、この5つの条件は「それぞれ矛盾する」と言っています。たとえば、智と勇。頭のいい人は実行力に欠けやすく、実行力に抜きん出た人は、思慮不足になりやすい。また、思いやりと厳しさも矛盾します。このように矛盾したものを抱え込める人が、優れたリーダーであるというのが彼の主張です。
私もこれには同感です。卓越した経営者ほど矛盾したものを抱え込み、かつ必要なときに必要な要素を引っ張り出しています。そうやって5つの要素のバランスを取っているのでしょう。
読者のみなさんも、自分に不足している要素は何か、チェックしてみてはどうでしょう。弱い要素があるなら、それを身につける努力をする。あるいは、それを強みとして持つ人と組み、チームとして成果を上げることを考えてみてください。
(『THE21』2015年6月号より/取材構成:前田はるみ 写真撮影:まるやゆういち)
更新:11月22日 00:05