2014年06月11日 公開
2023年05月16日 更新
《『THE21』2014年6月号より》
2月の冬季オリンピックが記憶に新しいが、もうすぐサッカーのワールドカップが開幕する。国際試合で大変なのが、時差のためリアルタイムで観ようとすると深夜のテレビ観戦になることが多いこと。
そこで、睡眠医学が専門の梶村尚史先生に、なるべく身体に負担をかけずにテレビ観戦と睡眠を両立する秘訣をうかがった。
<取材・構成:前田はるみ/LLUSTRATION:勝山英幸>
いよいよサッカーのワールドカップが始まります。サッカー好きにとっては楽しみな1カ月であると同時に、深夜のテレビ観戦が続く1カ月をどう乗り切ろうかと思案している読者も多いのではないでしょうか。
ワールドカップに限らず、国際試合における深夜観戦の難しい点は、試合がある日もあればない日もあり、また観戦したい試合の開始時間もバラバラであることです。不親則な睡眠リズムと、慢性的な睡眠不足に陥りやすくなるため、昼間の仕事にも支障が生じかねません。
では、どのように睡眠を取ればダメージを最小限に抑え、身体に負担をかけずに済むのか。これについてはマニュアルはありませんが、短い睡眠時間でも睡眠の質を高めるには、「睡眠リズムを守る」ことが重要なポイントになるでしょう。
世の中では、8時間睡眠や早寝早起きが理想の睡眠と言われていたり、また、最近では夜10時~深夜2時の間に睡眠を取らないと成長ホルモンが分泌されず身体が回復しないと言われていますが、これらは個人差もあり必ずしも正しくありません。睡眠の長さや時間帯よりも、重視すべきなのは「眠りの質」です。そして、眠りの質を最も高めるコツが、「何時に起きて、何時に寝る」という睡眠リズムを一定に保つことなのです。
たとえば、普段は夜11時に寝て7時に起きる人が、ある日、仕事で遅くなり、深夜2時に寝て朝9時に起きたとします。いつもと同じように7時間睡眠を確保したのに、朝起きたとき「まだ寝足りない」と感じるはずです。それは、急に睡眠の時間帯が変わると、他の生理機能のリズムがついていけないからです。
眠気をもたらすホルモンである「メラトニン」は、朝日を浴びてから約14時間後に分泌され始めます。それと同じタイミングで、体内の熟の発散により「深部体温」(身体の内部の温度)がぐんと下がります。この1、2時間後に眠くなるため、このタイミングでふとんに入ることが深く眠るためには大切です。就寝時間が後ろにずれると、これらのリズムがかみ合わなくなり、深い眠りを得ることができなくなるのです。
いったんリズムが崩れると、元に戻すことは容易ではありません。翌日またいつものように夜11時に寝ようとしても、難しいのです。
と言うのも、先ほどもお話ししたとおり、眠くなる時間は朝日を浴びた時間、つまり起床時間で決まります。いつもより遅く起きた日は、いつもの時間にふとんに入ってもすぐに
眠ることはできません。しかも、寝る前の2~3時間は最も覚醒度が高く、眠りにつきにくい時間帯。そういう時間帯に早く寝ようと思っても、逆に目がさえて、寝られないのです。その結果、翌日もスッキリ起きられず、頭がぼんやりして、効率の悪い一日を過ごすことになりかねません。
それでは、睡眠リズムを崩さないようにするにはどうすればいいのでしょうか。コツは、「起床時間を一定に保つ」ことです。
仕事で遅くなり、深夜2時に就寝時間がずれ込んだとしても、翌日はいつもどおり7時に起きるようにします。それによって、リズムのズレは軌道修正されます。その日は多少の睡眠不足を感じるかもしれませんが、昼間に仮眠を取るなどしてなんとか乗り切ります。そうすれば、夜はいつもと同じ時間、あるいは少し前に眠気が訪れて、深い眠りにつくことができます。この夜ぐっすり眠ることで、睡眠不足は一気に解消されるでしょう。睡眠で重要なのは長さではなく深さです。「深い眠り」こそ、疲労を溜めず睡眠リズムを守るために大切となります。
更新:11月22日 00:05