
米中対立が続くなか、日本は経済と外交の両面でどのような戦略を取るべきなのでしょうか。
高市政権が目指す南米の関税同盟メルコスルとの経済連携協定(EPA)は、新たな市場の開拓だけでなく、中国への牽制や経済安全保障の強化にもつながると期待されています。一方、日米韓の連携をめぐっても、中国やロシアとの駆け引きが激しさを増しています。
嘉悦大学教授の髙橋洋一氏が、メルコスルとのEPA締結の意義や日韓首脳会談の狙いを読み解きながら、日本が国際社会で存在感を高めるための外交・経済戦略を解説します。
※本稿は、髙橋洋一著『経済のニュースは嘘ばかり 株高、円安、物価高の正体』(PHP研究所)の内容を一部抜粋・編集したものです。
日本政府は、ブラジル、アルゼンチン、パラグアイ、ウルグアイ、ボリビアの南米5カ国が加盟する南米の関税同盟メルコスル(南部共同市場)との経済連携協定(EPA)をめざしています。5カ国の国内総生産(GDP)は3兆ドル(約480兆円)規模に上り、締結すれば大きな対中牽制になるでしょう。
メルコスルにとって現在、最大の貿易相手国は中国です。南米から中国への主な輸出品目は、大豆や牛肉、鉄鉱石、原油、リチウムやニオブの重要鉱物などです。一方、中国から南米への輸出品目は自動車、電子機器、機械類などの安価で競争力の高い工業製品です。
現時点で、メルコスル全体としての中国との自由貿易協定(FTA)は締結されていません。しかし2026年に入り、ブラジル主導でFTA関係の強化が模索されています。背景には、メルコスルとEUとのFTA交渉の難航や、米国の保護主義的政策への対抗措置があります。南米と欧米の関係がうまくいっていない隙に、中国が入ってきた経緯があり、それまで南米と中国との関係も滞っていたことから、日本の活路があるという判断です。日本としては中国より早く、メルコスルと経済連携協定(EPA)の締結に向けて動きたいところです。
なおFTAとEPAの主な違いは、対象となる範囲です。FTAが「モノの関税撤廃・削減」が目的であるのに加え、EPAはさらに「投資の促進、知的財産の保護、人材の移動」まで幅広い経済連携を含みます。実務上は、EPAはFTAの発展形、上位互換と捉えられます。
中国は生産手段が原則国有なので、投資や人の移動の自由化は難しく、EPAにはそう簡単に手が届きません。対外投資や人の流出は許容しても、対内投資や人の流入は許しません。この点、日本では制約がないので、EPAの締結が容易です。
欧米が中国への対処に苦しむなか、西側の民主主義・自由貿易圏の旗手として振る舞うという日本のポジショニングは絶好です。現在、高市政権は重要物資のサプライチェーン(供給網)強靱化による経済安全保障の強化に寄与し、新規市場開拓でも南米など大きなポテンシャルを有する市場へのアクセスを形成するなど、なかなかしたたかではないでしょうか。
2026年5月19、20日、高市早苗首相は韓国を訪れて李在明大統領と会談し、両国のエネルギー安全保障の強化で一致しました。この日韓首脳会談は、5月14、15日に行われた米中首脳会談直後に設定されたことに意味があります。
中国の外交における基本方針は、日米韓を分断するというものです。当時の日韓両国は、中国の意図に抗して米国を支えていくことを国際社会に示したといえるでしょう。
さすがの中国も、日米韓が組むと外交行動が限定されてしまいます。中国は5月20日、ロシアと首脳会談を行いました。中ロ首脳会談の共同声明は、米国を念頭に、国際法に反して覇権主義的に行動する国を批判しました(もちろん、ロシアのことは棚に上げています)。日本については名指しで「現在進めている急速な再軍備路線が地域の平和と安定に深刻な脅威となっている」(もちろん、中国のことは棚に上げています)と批判しました。
習近平国家主席はトランプ大統領との会談で、既存の大国が新興の大国と衝突するという「トゥキディデスの罠」(米国の政治科学者グレアム・アリソンの用語)に言及しています。他方、プーチン大統領との会談では中国がロシアやイランと手を組み、米国の覇権を覆して世界秩序を再構築する野心があることを示しています。
この中ロ首脳会談にぶつけるかたちでの日韓首脳会談は、きわめてタイミングがよいものでした。
今後、中国はなお日米韓の分断を図るべく切り崩しに動くでしょう。韓国に対しては北朝鮮経由で中国と地続きの半島国家である弱みを突いて懐柔し、日本に対しては中ロ首脳会談で行ったように軍国主義批判を繰り返す。米国に対しては、中国の国民向けには威勢のいい姿勢を示すものの、米国の面前ではへりくだる二面性を見せています。
2026年5月の米中首脳会談では、CCTV(中国中央電視台)が中継のマイクを切り忘れてしまい、習近平主席がトランプ大統領におもねる発言「この1年余、米中関係は少なからぬ紆余曲折を経てきましたが、全体として安定を保っています。中国側は米中関係の安定的、健全、持続的な発展に尽力しており、私どもとしては...」が漏れてしまいました。
日本の報道では、米中首脳会談で日本は蚊帳の外とする論調が多数でした。しかし実際は、トランプ大統領は米中首脳会談直後に大統領専用機エアフォース・ワンから高市首相に電話し、会談内容を説明しました。しかも、米中首脳会談で中国の習主席が高市首相を批判したにもかかわらず、トランプ大統領は高市首相を擁護したという報道も出ています。
米国のスタンスを見れば、韓国としても日本と友好関係を維持するのが得策と考えるはずです。韓国は、半島国家の宿命からか事大主義(支配的な勢力に迎合する考え方)の側面をもっており、中国を向くか米国を向くかの間でつねに外交が揺れ動きます。しかし客観的に判断すると、さすがに現在の中国になびくのは賢明ではない。対日関係強化という意味で、日韓首脳会談はまさに渡りに船だったといえるでしょう。
日本の財政破綻論は噓であり、「責任ある積極財政」は公共投資を増やし、日本を再び中国を凌ぐ大国へと押し上げることを意味します。経済安全保障という政策が、ようやく実体を伴ってきた感があります。
更新:11月02日 00:05