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「早く母を幸せにしてやりたい」 アイデア1つの学生が成り上がるまで

栗田廉([株]miive 代表取締役CEO)

「早く母を幸せにしてやりたい」 アイデア1つの学生が成り上がるまで

学生時代に思いついた構想から、フィンテックの高い壁をどう乗り越えたのか。「miive」創業者の栗田氏が、起業の原点と今後の展望を語る。(取材・構成:川端隆人、写真撮影:丸矢ゆういち)

※本稿は、『THE21』2026年秋月号の掲載記事より、内容を抜粋・編集したものです。

 

立ちはだかったフィンテックの高いハードル

――Visaプリペイドカードを使って決済するというビジネスを実現するまでには、困難が多かったのではないでしょうか?

【栗田】そうですね。miiveの構想を思いついた当時はまだ学生でしたし、スタートアップが自社ブランドのカードを発行するノウハウは世の中に知られていませんでした。

幸運だったのは、僕らより上の世代のスタートアップで、カード事業を展開されているカンムの創業者である八巻渉さんが、どうやってカードを発行し、システムを構築したのかという技術や手続き上の知見を、ネット上に日記として残してくださっているのを発見したことです。それを頼りに、手探りでカード会社や関係各所へのアプローチを始めました。

Visaブランドのカードを発行するためには国内のカード会社に間に入っていただく必要があります。訪問して「新しい福利厚生カードを作りたいんです」と熱意を伝えたのですが、まず言われたのは、「資金はあるのか? プロダクトは開発できるのか?」ということでした。

そこで、並行して資金集めと仲間集めに取りかかったのですが、投資家からは「Visaのライセンスは本当に取れるのか? プロダクトは開発できるのか?」と問われる。エンジニアに声をかけると、「資金はあるのか? Visaのライセンスは取れるのか?」と問われる。3方向、それぞれからNGが出てしまうわけです。

もう後には退けないという思いでなんとかそこを乗り切って、全方向の合意を取り付けることができました。

そこからサービスをローンチするまでには、さらに2年かかりました。

売上もないなかで、共同創業者になってくれた幼馴染(弥永大地氏)は、本当に朝から晩まで、土日も関係なく仕事を続けてくれました。

フィンテック領域での起業は、お客様のお金を安全にお預かりするための厳格な仕組みを構築しなければいけない以上、そのくらいの期間はかかりました。

――暗闇の中を進むような苦しい創業期に支えになったのは、ビジョンとご自身の価値観だったと思います。そのルーツはどこにあるのでしょうか?

【栗田】原体験としてあるのは、母親です。母は一人でずっと働いて、僕を育ててくれました。「早く母を幸せにしてやりたい」という思いから起業家を志した、というのが原点です。

母がいつもつらそうに働いていたのが、見ていてもつらかった。でも、働かないと生きていけないし、当時の僕は「頑張って」としか言えなかった。だからこそ、「働く」ことの意味について意識するようになったのだと思います。

一方で、母はかつて別の会社に勤めていた頃の良い思い出を話すこともありました。そのときの写真を楽しそうに見せてくれたりとか。

その様子を見て、コミュニケーションや交流の可能性というものに気づいたのかもしれません。

その後、就職活動をしながらも起業のテーマを探してアンテナを張っていたときに、ビビッと来たのが福利厚生でした。まだ就職もしていない「部外者」だからこそ、福利厚生に違和感があったんです。色々な企業の従業員の方に話を聞くと、「あまり使ったことがない」という声が多かった。

国内の福利厚生サービスには3,000万人規模の会員がいます。会社はそれだけの投資を続けているわけです。それなのに使っている人が少ないというのは、外から見ると異常です。

利用者がいない福利厚生に使われている予算を、きちんと従業員フレンドリーな設計に変えるだけで、どれだけ世の中が変わるだろうかと、大きなポテンシャルを感じました。

もう一つ、影響を受けたのはコロナ禍です。「働く」ということが根底から変わったタイミングでした。

リモートワークや、出社と組み合わせたハイブリッドワークが普及して、働く場所が物理的に切り替わることは、多くの人にとってキャリア観が変わるタイミングだったでしょう。当然、企業の従業員に対する向き合い方も変わります。ここでも、コミュニケーションの重要性を再確認しました。

どこにも帰属意識を感じられない孤独は、人間の心身にとって良くない。人間は社会的な動物で、誰かと一緒に何かを成すことに至上の喜びを感じるもの。だとしたら、自分の考えているサービスが求められないわけがない。

その確信があって、腹をくくれたと思います。

 

「職域金融プラットフォーム」と「豊かな国」の実現へ

――福利厚生を通して、数多くの企業を見ていると思います。栗田CEOが考える「良い会社」とは、どんな会社でしょうか?

【栗田】様々な企業と対話をさせてもらうなかで、よく受ける質問があります。「別に、福利厚生じゃなくても、給与でよくない?」という質問です。

僕は、その意見も否定はしません。パフォーマンスが高いほど給与を上げる「Pay for Performance」に振り切って大きくなっている会社もあります。

それは企業のスタンスの違いです。それぞれの企業が、事業や組織風土に合わせて、給与とその他の待遇のベストミックスを設計していくだけです。

人材獲得競争が激しくなっていくなか、各企業が給与も福利厚生もできるだけ上げようとして、多くが横並び状態になるでしょう。そうなったとき、会社が、経営者が、大切にしている価値や思いをどれだけ伝えられるか、「その会社らしさ」をどれだけ伝えられるかが重要になります。

福利厚生は、「従業員にどうあってほしいか。どのような組織を目指しているか」をわかりやすく伝えるメッセージになると考えています。

――最後に、今後の展望を聞かせてください。

【栗田】まずは、miiveのサービスを広げ、福利厚生を介して世の中を変えていくこと。国内6,000万人規模の働くすべての人に対して、新しい福利厚生体験を届け切る。これは3年以内にやっていきたい。

その先に描いているビジネスモデルとしては、職域金融構想があります。従業員貸付、団体保険や積立といった、職域において提供されるあらゆる金融サービスにmiiveのプラットフォームからアクセスできるようにするというものです。

中長期的に実現していきたいビジョンは、豊かな国を作ること。

豊かさには2種類あると思います。

一つは経済的な豊かさ。福利厚生の仕組みが変わり、働き方が変わり、皆が生産性高く前向きに働くことができれば、経済的な豊かさに必ず寄与できるはずです。

もう一つは、心の豊かさです。

こちらは「良い会社で働けている」「会社の一員である」といった実感によって満たされます。

miiveは、こうした豊かさを作っていける会社でありたいと思っています。

福利厚生プラットフォーム「miive」

プロフィール

栗田廉(くりた・れん)

㈱miive 代表取締役CEO

1997年生まれ。岐阜県出身。就職活動時の「福利厚生」への違和感から、2020年に㈱miiveを創業。人的資本経営を支える次世代の福利厚生プラットフォーム「miive(ミーブ)」を展開。日本の閉塞感を打ち破るべく、「働く」すべての人の未来を創造する事業を拡大中。2022年すごいベンチャー100、Forbes 30 Under 30 Asia 2023選出。ソフトバンクアカデミア15期生。

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