
社員が同じ方向を向いて自走する組織は、
※本稿は、池戸裕 著『人を動かすリーダーの言語化 「ストーリーのある理念」が組織を変える』(三笠書房)より、内容を一部抜粋・編集したものです。
「理念を自分ごと化すること」が、どのような力を発揮していくかを具体的に掘り下げていきます。
自分ごとになった人は、何か指示しなくても、正しい方向に自走できるようになるのですが、その変化が組織にとって、どうプラスに働くかを詳しく解説していきます。
理念を共有し、組織内での価値観が統一されると、すべての計画や行動が一貫した基準に基づいて進められるようになります。
たとえば「この問題はどちらで解決するべきか」という判断や選択を迫られたとき、理念のような軸がないと、主観や一般論を基準にするしかないでしょう。
仮に意見が対立したとき、立場が上の人が主観や一般論を、あたかも会社の意見として述べた場合、言われた側は「違うだろう」と思っても言い返せません。
そんな状況をつくらないために、曖昧な解釈の余地がない判断軸となる理念が必要なのです。
また、大切なのは、社長ですらもこの理念における判断軸には従う必要があるということです。この鉄則を徹底した経営者がいる企業は風通しもよく、年次に限らず恐れることなく闊達な意見交換ができます。すなわち、理念を自分ごと化している人ほど評価されるうえ、成長・昇給をどんどんしていくことになるでしょう。
理解と共感、自分ごと化が進むと、社員同士のコミュニケーションが円滑になり、物事を進めるスピードが格段に向上します。
高校の野球部でたとえてみましょう。甲子園に出場することが夢という部員と、甲子園に出場して優勝を目指す部員がバラバラにいる状態では、推進力は生まれません。しかし、全部員が甲子園での優勝を心から本気で信じているなら、確実に推進力は生まれるでしょう。
これは、つまり自分たちのチームをつくる際、会社の理念をどれだけ深く自分ごと化したメンバーで固められるかが問われている、ということでもあります。
目標として「甲子園優勝」を掲げること自体は難しくはありませんが、掲げるだけではダメでしょう。
大切なのは、メンバー全員が「本気で甲子園で優勝したい。自分たちならば絶対できる」と思う状況をつくれるかどうか。
どんな強豪校でも、気がついたら甲子園で優勝していたなんてことはないはずです。必ず高い目標を掲げ、その目標を一人一人が自分ごととして捉え、日々の努力を惜しまなかった結果でしょう。
そう考えると、目標を掲げ、自分ごととして捉えてもらうためのリーダーの役割について、いかに大切かがわかります。
一緒に生活し、苦楽をともにした関係性を表す「同じ釜の飯を食う」という慣用句があります。この言葉のように、人は一つの目標に向かって真剣に取り組み、苦楽をともにした経験をした人と一体感が深まっていくものです。
ここで大切なのは「一つの目標に向かって真剣に取り組む」ことです。
会社を例に考えてみましょう。たとえば、モノづくりのメーカーX社。生産ラインを仕切るAさん、小売店での面を増やすべく営業を担うBさん、人材採用をがんばるCさんと、それぞれの担当者が部門ごとに別の想いで取り組んでいる状態だとしたら、応援し合ったりはするかもしれませんが、一体感が生まれる段階には至らないでしょう。
しかし、ここに同じ目的があったらどう変わるでしょうか。仮に「日本一の商品をつくるメーカー」になろうという目標があり、生産部門のAさん、営業部門のBさん、人事部門のCさんが、それぞれが本気で思っていたとしたら「自分はここをやるから、そっちは任せた!」というような、背中を預けられる信頼関係が自ずと生まれてきます。
「いいモノをつくるのは任せてくれ。その代わり、絶対に売ってきてくれ」「この想いを継承してくれる、生産メンバーを採用してくれ。気持ちさえあれば絶対に育てきる」など、お互いプロとしての誇りのもと、必ず未来を明るいものにすべく結束していけるはずです。そんなムードになったときの組織は、持てる力以上の成果を発揮します。
こういった観点からも、リーダーは確かなビジョンや理念を、組織にインストールさせていくことが求められていることがわかります。
たとえば「世界一のIT企業になる」ことが会社の目標であり、それが正しいという文化が社内に浸透していて、長時間労働は当たり前だと社員が全員思っているとしたら。
社員が〝世界一のIT企業を目指している自分たちカッコいい〟とさえ思えるようになり、各々が努力を惜しまない環境になったら。
そんな企業は、課題解決がスムーズに進み、指示待ち社員はいなくなります。
あるいは「24時間働く」ことがミッションで、そこに魅力を感じて入社してきた社員ばかりの会社なら、実際にひと月の残業時間がかなり多くなっても〝ブラック企業〟と言う社員は出てこないでしょう。
みんなの目線が揃っていれば、会社が強くなることは間違いありません。
理念に共感し、自分ごととして行動するメンバーが増えることで、組織内の人材育成や評価もしやすくなります。一般的に人事評価制度は、上司との相性や好き嫌いなど、人が決める以上は主観的な部分が混じってしまうことがあるものです。
そうなると、行動原理が「会社のため」ではなく「上司の顔色をよくするため」に変わってしまう可能性があります。これこそが、一番恐れるべき状況となり得るのです。
ここを、いかにフェアにおこなえるようにするかが、人材育成プランや評価制度をつくっていくうえでの鍵にもなるのですが、ここでも軸となるのはやはり理念です。
評価されるのは、評価されるべき行動を取り成果を残した人=理念を体現した人、と明確に定義することによって、主観的な判断をなくしていきます。
もちろん、評価する側のトレーニングも必要なことではありますが、主観的な評価がなくなっていくことで、組織全体に漂う諦め感や、顔色をうかがうムードもなくなっていきます。
そのため、人材育成がスムーズになりますし、「なぜこの人が評価されているのか」という基準も明確になるので、極めてフェアな組織にしていくことができます。
このように、「理解」「共感」「自分ごと」という三つのステップが、組織内で一貫して機能すると、計画力・推進力・結束力・求心力が飛躍的に向上し、組織全体が大きな力を持つようになります。
それぞれの要素が連動し、メンバー同士が支え合いながらゴールに向かって歩む組織をつくることができるのです。
更新:07月13日 00:05