
一度よくなったはずの首の痛みが、しばらくするとまた戻ってくる。そんな経験があると、「なぜ治りきらないのだろう」と感じることもあるでしょう。痛みをくり返す背景には、目に見えにくい体の使い方や筋肉の状態が関係している場合があります。整形外科専門医の吉原潔氏による書籍『首の痛み・コリ・しびれ 自力でできるリセット法』より解説します。
※本稿は、吉原潔著『首の痛み・コリ・しびれ 自力でできるリセット法』(アスコム)より、内容を一部抜粋・編集したものです。
「本当によくなりました。ありがとうございます」と笑顔で診察室を後にされた患者さん。その方が、数か月後にまた「首が痛いんです」と来院されることがあります。
その背景にあるのは、「レントゲンで確認できない異常」。特に、筋肉の緊張による痛み─いわゆる「コリ」が関係しています。
首の痛みが引いたとしても、コリが残っていれば、それは一時的なもの。同じ部位に再び負担がかかれば、痛みが再発するのは自然な流れなのです。私は、35年以上の臨床経験から、首の痛みがなかなか取れない原因を以下のように考えています。
・ 首の痛みの多くは、筋肉のコリや緊張といった「筋肉由来」のもので、実際には、全体の8割前後がこのタイプ
・残りの一部に、神経や骨の異常が関係しているケースがある
実際、Pain Medicine誌に掲載された研究では、慢性の首痛患者の約94%に筋肉のトリガーポイント(筋肉の中にできる、痛みの原因となる小さな"しこり")が見られたと報告されています。
では、なぜ、首の筋肉はこってしまうのでしょうか?
なぜ、コリは首の痛みを慢性化させてしまうのでしょうか?

首の筋肉は、肩甲帯や胸郭、骨盤、さらには足裏に至るまで、「筋膜」という膜を介してつながっています。筋膜とは筋肉を包む結合組織で、骨や関節、神経の周囲組織とも関連しながら、体の動きや姿勢を調整する役割を担っています。
この筋膜は通常はなめらかに動きますが、コリが生じると硬くなったり、筋肉にくっついて動きが悪くなったりすることがあります。
実は、その影響は筋膜のネットワークを通じて、離れた部位にまで及んでしまうのです。これを医学的には「筋膜連鎖」と呼びます。
例えば、首がこって硬くなると、背中の上のほう(胸椎まわり)の動きも悪くなり、それにつられて肩甲骨まわりの筋肉の動きが低下し、肩甲骨をスムーズに動かせなくなります。こうした現象は決して珍しいものではありません。
そして、肩甲骨の動きが悪くなると、困ったことが起きます。肩甲骨には「僧帽筋」という大きな筋肉が付着していて、この筋肉が硬くなると血流が悪くなります。すると、痛みを引き起こす化学物質が増えやすく、しかも分解・除去されにくい状態になってしまいます。
さらに、僧帽筋には「トリガーポイント」と呼ばれる、しこりのような部分ができやすく、そこをきっかけに首や頭へと痛みが広がることもあります。 このような筋肉と動きの連鎖によって、首の痛みがくり返し起こることがあります。
ちなみに、筋膜連鎖の観点から、五十肩も首痛を悪化させる要因になります。
肩の動きが制限されると、首まわりの筋肉がそれを補おうとして、常に緊張を強いられる状態になります。これが続くと首の筋肉に疲労がたまりやすくなり、痛みが起こる原因となるのです。

姿勢の悪さも、首の痛みに大きく関係しています。特に「猫背」や「スウェイバック」は、首に負担がかかりやすく、痛みにつながりやすい姿勢です。
上の図をご覧ください。骨盤が前に傾くことで猫背になり、頭が前に突き出した形になっていますね。このような猫背を伴う姿勢は、よくないのです。
・首や肩の筋肉が常に引き伸ばされ、首や肩の関節に負担がかかる
・背骨のバランスがくずれ、頭を支える首や肩の筋肉に過剰な緊張が生じる
・その状態が続くことで筋肉が十分に休めず、疲労やコリが蓄積しやすくなる
さらに、背中が猫背になることで胸郭の動きが制限され、肺が十分に膨らんだり縮んだりできなくなるため呼吸も浅くなります。
呼吸が浅くなると、本来は横隔膜が担う呼吸運動を補うために、首の横にある斜角筋群などの呼吸補助筋が過剰に使われるようになります。
その結果、首や肩の筋肉に過剰な負担がかかり、疲労やコリが悪化しやすくなるのです。
姿勢の悪さは、自分ではなかなか気づけないもの。これも痛みが慢性化する原因となっています。
更新:06月19日 00:05