
英語学習には、コロケーション、フレーズ、メタファー、コノテーション、語源、意味のネットワーク、フレームといった言語学の知識について知ることが重要だと内田諭氏は指摘します。
実は、辞書にはこのような言語学的な視点からの解説が多く含まれています。世界トップレベルとも評される日本の英和辞書を最大限に活かすには? 書籍『英単語「1万語」習得法』より解説します。
※本稿は、内田諭著『英単語「1万語」習得法』(PHP新書)より、内容を一部抜粋・編集したものです
辞書を「引く」という言い方をしますが、辞書を「読んだ」ことはあるでしょうか。単に知りたい単語の意味を確認するだけではなく、読書として辞書を味わう、ということです。
私は辞書が好きで、中学・高校時代は授業中によく読んでいました。いわゆる「内職」ですが、辞書を広げている姿は勉強しているようにも見えますので、堂々とできます。興味のままにページをめくり、「この単語にはこんな意味があるのか」、「この表現、日本語と発想が全然違う」などと発見を重ねていくうちに、いつの間にか時間が過ぎている──そんな経験を何度もしてきました。
辞書には実にさまざまな情報が詰まっています。見出し語の意味はもちろん、発音、語源、コロケーション、類義語との使い分け、文法的な注意点、そして時には文化的な背景まで含まれています。目的の単語の意味だけを見て閉じてしまうのは、宝の山の入口で引き返すようなものかもしれません。
なお、「辞書」と「辞典」はほぼ同じような意味で用いられます。辞書のほうがやや広い意味で用いられることがあり、辞典は特に言葉の意味を解説する書物について用いられます。本稿ではカバータームとして「辞書」を用いることにします(「辞典」は書名で使われることが多いようです)。
AIと辞書には決定的な違いがあります。それは「情報の信頼性」です。AIは膨大なデータから学習した統計的なパターンに基づいて回答を生成します。コロケーションやフレーズについてはかなり有益な情報を提供してくれますが、ときにハルシネーション(誤った情報の生成)を起こすこともあります。
一方、辞書は言語学や英語教育の専門家が、膨大な時間をかけて執筆・編集したものです。すべての記述には裏付けがあり、何度もチェックを経て出版されています。つまり、辞書は「目利きのプロが選んだ情報だけ」が載っている、信頼できる情報源なのです。
現在、私は辞書を「書く側」の立場になりました。『オーレックス英和辞典第3版』(旺文社)では編者として関わることができましたが、辞書を作る過程で改めて実感したのは、一つ一つの用例に込められた「魂」です。「この例文で、学習者にこの単語の本質が伝わるだろうか」「この説明は正確で、かつわかりやすいだろうか」──そんなことを考えながら、執筆者たちは用例の一つ一つを選び抜いています。
日本の英和辞書は、世界的に見ても非常に高い水準にあります。その証左として、書店に行けば数多くの種類の英和辞書を見つけることができます。語法の注記に詳しい『ジーニアス英和辞典』(大修館書店)、コーパスに基づいて意味を記述する『ウィズダム英和辞典』(三省堂)、語用論的な注記を豊富に含む『オーレックス英和辞典』(旺文社)、ビジネスに強い『プログレッシブ英和中辞典』(小学館)、長い伝統を持つ『ライトハウス英和辞典』(研究社)など、実に多岐にわたります。
これらの辞書が日本の英語教育を支えてきたと言えますが、その中で辞書の記述は洗練され、よりユーザーフレンドリーなものへと進化してきました。世界的に見ても、これほど高いレベルで学習者向けの辞書が揃っていることは非常に珍しいことです。
また、和英辞書も充実しています。先に紹介した辞書は、どのシリーズも和英辞書があります。和英辞書はライティングの際に有益なもので、日本語から英語を引くことで適切な表現を見つけることができます。ただし、和英辞書を使う際には注意が必要です。日本語の単語がそのまま英語に一対一で対応するとは限らないからです。
例えば「やさしい」を和英辞書で引くと、kind、gentle、easy、simpleなど複数の訳語が並びます。「人にやさしい」ならkindやgentle、「問題がやさしい」ならeasyやsimpleが適切です。このように、日本語では同じ言葉でも、英語では文脈によって使い分ける必要がありますので、辞書の記述をしっかり確認してください。
和英辞書で見つけた表現は、英和辞書や英英辞書でも確認する「往復引き」をおすすめします。英和辞書で用例やコロケーションを確かめることで、その表現が本当に意図した文脈で自然に使えるかを確認できます。
これらの英和・和英辞書の充実に加えて、辞書に関する手引書が多く出版されていることも注目に値します。
例えば、関山健治(2007)『辞書からはじめる英語学習』(小学館)、磐崎弘貞(2011)『英語辞書をフル活用する7つの鉄則』(大修館書店)などは優れた入門書です。近年も石原健志(2026)『辞書で身につく本当の英語力 ひらけばわかる、最強の学習ツール』(大修館書店)など、辞書に関する書籍が継続的に出ています。つまり、日本の辞書を取り巻く環境は非常に恵まれているのです。
英語力を高めるための言語学的な観点として、コロケーション、フレーズ、メタファー、コノテーション、語源、意味のネットワーク、フレームが重要ですが、これらの情報の多くは辞書で得ることができます。しかも、プロの選んだ最高品質の情報が載っています。特に、複数の辞書を調べることで、さまざまな情報を得ることができます。
以下では、「単語と単語の自然な組み合わせ」であるコロケーションに関係する情報が辞書にどのように掲載されているかを見ていきます。主に私が編者として関わっている『オーレックス英和辞典第3版』(旺文社)のアプリ版から例を示します。

コロケーションの例
「コロケーション辞書」では、網羅的にコロケーションを調べることができますが、英和辞書や英英辞書にもコロケーションは記載されています。例えば、『オーレックス英和辞典第3版』では主要な語に「連語」という欄が設けられており、ここで学習に役立つコロケーションを見つけることができます。図はconclusionの例(アプリ画面)です。
コロケーションに特化したコラムがない場合も、用例を見ると重要なコロケーションが記載されていることが多いです。例えば、『オーレックス英和辞典第3版』のachieve(~を成し遂げる)には連語欄がありませんが、用例を見ると、achieve equality(平等を達成する)、achieve an objective [a goal, an aim](目的を達する)、achieve victory [fame](勝利[名声]を得る)など多くのコロケーションを発見することができます。
また、複数の辞書を引き比べてコロケーションを収集すると新しい発見があります。用例には執筆者の魂がこもっていますので、「意味」だけ見て終わりにせず、例文にもぜひ着目してみてください(辞書のクセや好みも見えてくるかもしれません)。
更新:05月19日 00:05