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アスクル創業者が20年欠かさなかった「週1朝礼」...急成長を支えたのは社長自身の"自分との戦い"だった?

篠田真貴子(エール[株]取締役)、岩田彰一郎([株]フォース・マーケティングアンドマネージメント代表取締役CEO)

「THE21」岩田彰一郎×篠田真貴子

アスクル㈱の創業者であり、初の著書『起業家になる前に知っておいてほしいこと』を3月に上梓した岩田彰一郎氏とゲストとの対談企画第2回。今回は、エール㈱取締役の篠田真貴子を迎え、理想とする組織のかたちとは何か、そしてそれを実現するために経営者にできることについて語り合ってもらった。(取材・構成:杉山直隆、写真撮影=江藤大作)

※本稿は、『THE21』2026年6月号の内容を一部抜粋・再編集したものです。

 

アスクルを成長させた「ラグビー型組織」とは?

【篠田】私も小さな会社の経営陣の一人として、経営の難問に日々直面しているので、ご著書の内容は共感することばかりでした。アスクルが成長した理由の一つは、「ラグビー型組織」にあるそうですね。

【岩田】はい、「ラグビー型組織」とは、会社組織をスポーツの組織にたとえたとき、ラグビーのチームのように社員が働く組織のことです。

野球は、守るポジションが一人ひとり決まっていて、自分のポジション以外の仕事はほぼしないスポーツですよね。それに対し、ラグビーはいちおうポジションが決まっていますが、選手たちがその時々の状況に応じて、ポジションにこだわらず臨機応変に動くスポーツです。

例えば、相手選手が混戦から抜け出してトライゾーンに迫っていたら、ポジションに関係なく追いかけてタックルをしにいきます。「私はこういうポジションだからタックルはしません」などという選手はいません。攻撃の際もメンバー全員でスクラムやパスなどでボールを前に運んでいき、全員の力でトライを目指します。

【篠田】転じて、会社でも、社員がポジションにこだわらず、臨機応変に動くことで、全員の力でトライを目指すというわけですね。

【岩田】その通りです。会社がどういう状況かを把握しながら、今何をすべきか、何が必要かを、社員一人ひとりが考えて自由に動く組織がラグビー型組織です。必要ならばポジションの枠を超えて仕事をします。皆で助け合って、自分の弱みや足りないものを皆が補完し合う。このような組織を実現したことが、アスクルの成長の原動力になりました。

 

「サザエさん症候群」になりながら週1回の朝礼を20年以上継続

【篠田】ラグビー型組織は多くの経営者にとって理想的な組織だと思いますが、つくりあげるのは簡単ではありません。アスクルではどのようにつくりあげたのですか。

【岩田】会社や部署が置かれている現状がよくわからなければ、自分で判断して行動することはできません。また当事者意識も湧いてこないでしょう。そこで、良いことも悪いことも、会社の現状に関する情報を全社員と共有するようにしていました。

【篠田】具体的には何をされていたのですか?

【岩田】メインは毎週月曜の朝礼です。この場で、私から直接、社員に様々な情報を伝えるようにしました。「今、どの部署でどんなことを進めているのか」といった現状報告や、お客様から褒められたことやお叱りを受けたこと、「お客様のために進化する」という理念を体現しているエピソードなどを共有するのです。かれこれ20年以上続けました。

【篠田】毎週毎週お話をされるのは、さぞかし大変だったと思います。

【岩田】はい、すごいプレッシャーでした。朝礼の出席は義務付けていなかったので、私の話がつまらないとそのうち誰も来なくなりますから。

【篠田】毎週、朝礼をしていると、社員の皆さんの反応の違いもわかるようになったのでは?

【岩田】そうそう。みんな厳しいですよ。自分自身が「今日は薄っぺらい話をしているな」と思いながら話をしているときなど、しっかりバレています。社長だからといって、本気で伝えたいと思っていないことを口先で話してもまったく届きません。だから日曜日の夕方になると「サザエさん症候群」に(笑)。朝礼直前まで「今、本当に伝えたいことは何か?」「どのように話せばより伝わるか?」とずっと悩んでいました。

【篠田】岩田さんが「サザエさん症候群」になりながらも朝礼を続けたからこそ、アスクルの方たちは岩田さんの視点や視座に触れられ、同じ考えを持てたのでしょうね。

 

会社のメンバーは一緒にパンを食べる仲間

【岩田】ラグビー型組織をつくるうえでもう一つ大切にしていたのは、社長も新入社員も、誰でもフラットな関係にあることを浸透させることです。お互い平等な立場であり、役職に関係なく、どんどん発言していいし、積極的に行動していい。そんな雰囲気が会社全体にないと、怖くて思い切ったことができません。

【篠田】フラットな関係づくりも難しいと思いますが、改めて何が重要だとお考えですか?

【岩田】まずは「権威装置」をなくすことです。権威装置とはある人の権威を示すもののこと。「社長室を設ける」「管理職の机の位置を上座にする」「役職者の机やイスを高価にする」といったことも、権威装置の一種です。これらがあると、いくら口先でフラットといっても信用されないので、アスクルでは一切排除しました。

本社オフィスも、皆同じ机とイスを使い、仕切りをなくしてオープンにし、皆が働いている姿を見渡せるように。私自身も、社長室を持たずに、皆と同じフロアで、皆と同じ机とイスで仕事をしていました。

さらに、時間があるときは社内をウロウロと歩き回って「最近どう?」「元気?」と声をかけていくんです。たいていは他愛のない雑談で終わるのですが、時には「ちょっといいですか」といって言いたいことを言ってきてくれることもありましたね。

【篠田】社長が「元気?」と話しかけてきても、普段ガチガチの上下関係があったら、一般社員は恐縮して話せないと思います。岩田さんがいつでも一貫してフラットな姿勢でいたからこそ、社員の皆さんも気軽に話せたのかなと思いました。

【岩田】法律の観点で見ると、社長と従業員は役員と使用人の関係にありますが、「そういう関係性は嫌だなぁ」と思っていました。私がつくりたかったのはカンパニー。カンパニーの語源が「Com」(共に)と「pany」(パンを食べる)で、「一緒にパンを食べる仲間」であるように、アスクルも、メンバーは共に仲間であり、そういう空気の会社にしたかったのです。それが実現できたかなと思っています。

プロフィール

篠田真貴子(しのだ・まきこ)

エール㈱取締役

東京都生まれ。慶應義塾大学経済学部卒、米ペンシルベニア大ウォートン校MBA、ジョンズ・ホプキンス大学国際関係論修士。日本長期信用銀行、マッキンゼー、ノバルティス、ネスレを経て、2008年12月より18年11月まで㈱ほぼ日(旧・東京糸井重里事務所)取締役CFO。退任後「ジョブレス」期間を経て、20年3月よりエール㈱の取締役に就任。社外人材によるオンライン1on1を通して、企業の組織改革を支援している。

岩田彰一郎(いわた・しょういちろう)

㈱フォース・マーケティングアンドマネージメント代表取締役CEO

1950年、大阪府生まれ。慶應義塾大学卒業後、ライオン油脂(現・ライオン(株))入社。86年にプラス入社。93年にアスクル事業を開始。97年、アスクル事業がプラスから分社し、アスクル代表取締役社長に就任。2019年8月に退任するまでトップを務める。同年9月、フォース・マーケティングアンドマネージメントを設立し、代表取締役CEOに就任。大手企業のイノベーションの推進およびベンチャー企業のハンズオンによる育成を行なっている。

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