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森永卓郎氏が「都会暮らし」を危険視するワケ グローバル資本主義の崩壊で起こる悲劇

2024年11月01日 公開

森永卓郎(経済アナリスト)

森永卓郎

半導体バブルの崩壊、そこから連鎖して起こる株価の暴落、円高の進行による日本の窮地。このままでは破産者や、老後資金を失う人が続出する......。そうした暗黒の未来を予測する一方で、救いの道はあると説く森永卓郎氏。先の見えない時代に、今我々はどのように備えたらよいのか? 『THE21』2024年11月号では、森永氏に話を聞いた。

※本稿は、『THE21』2024年11月号特集「これから10年の生き方・働き方」より、内容を一部抜粋・再編集したものです。

 

食料と電気を自分で作り「自産自消」を実践

森永氏が脱・都会のトカイナカ生活で得たもの

今から遡ること150年前、経済学者のマルクスは「資本主義は必ず行き詰まる」と指摘しました。その理由を彼は4つ挙げています。1つめは地球環境の破壊。2つめは許容できないほどの格差の拡大。3つめは少子化の進行。そして4つめがブルシット・ジョブ、日本語に訳すと「クソどうでもいい仕事」の蔓延です。

中でも大都市で働く非正規社員の仕事は、コンピュータに管理・指示され、まるで機械の歯車のようにボロボロになるまで働かされるようになる。そこには何のやりがいも楽しみもありません。

しかも今後、定型的な作業はどんどんAIに置き換わります。すると最終的にはブルシット・ジョブもAIに代替され、人間との価格競争になっていく。クソどうでもいいうえに、お金も稼げない仕事にしがみつくという悲惨な状況になるでしょう。

私がビジネスパーソンの皆さんを見ていて最も懸念しているのは、グローバル資本主義が崩壊寸前を迎えているにもかかわらず、リスクの高い都会暮らしにこだわっていることです。

恐慌にしろ、戦争や震災にしろ、大きな変化が起こった時に飢えるのは、農地がほとんどない大都市に住む人たちです。太平洋戦争中も、都会の人たちは箪笥から着物を引っ張り出し、わずかな米と交換するために郊外や地方まではるばる出かけていくしかありませんでした。

そこまでの危機的状況ではなくても、現役時代はAIとの競争で稼ぎが減り、年金生活になれば収入はさらに落ち込む中、生活コストの高い都会に住み続ければ破綻のリスクがつきまといます。

だから多くの人は収入減を埋め合わせようとして、死ぬまでブルシット・ジョブを続けるか、投資で資産を増やそうとして失敗する。あなたは本当にそんな人生を望んでいるのか。それが今、問われています。

私自身は40年近く前に埼玉県所沢市に自宅を構え、平日は東京の事務所で寝泊まりし、週末は都会と田舎の中間にある「トカイナカ」の我が家で過ごす生活を続けていました。

それを変えるきっかけとなったのが、2022年の新型コロナウイルスの感染拡大です。仕事が片っ端から飛んで暇になったので、これはチャンスだと思い、活動の軸足を所沢に移して社会実験をすることにしました。テーマは食料と電気を自分で作って「自産自消」を実践すること。自宅の隣にある耕作放棄地を借りて30坪の畑で野菜作りを始め、太陽光発電も本格的に始めました。

食料は、肉や魚を除けばほぼ自給できるので、食費はそれまでの半分以下に。電力も自家発電で賄えるようになりました。しかも、トカイナカは都心に比べて物価が3割ほど低いので、日用品なども安く購入できる。

我が家は私と妻と義母の3人暮らしですが、食料と電気を自給すれば、毎月の生活費は10万円もかからないことがわかりました。これなら定年後も年金だけで暮らせるので、ブルシット・ジョブや投資に走る必要はありません。

グローバル資本主義が崩壊すれば、食料や資源の供給を世界に依存するわけにいかなくなります。「自産自消」を基本とし、自分で作れないものは「地産地消」や「国産国消」で賄う。これが、来る構造転換後のライフスタイルになるのでは、と私は考えています。

 

これから幸せに生きるには創造性と教養が必要

オムロン創業者の立石一真氏は、1970年に発表した未来予測学の「サイニック理論」において、2025年以降は「自律社会」へ移行すると予測しました。これは「自立・連携・創造」を3本柱とする社会です。

自立とは他者に依存せず、必要なものは自分自身や自分たちの地域で作ることを意味します。加えて周りの人たちと連携し、互いに支え合うことが必要になる。私も昨年末にガンの治療を始めてから農作業ができなくなりましたが、近所の畑で野菜作りをしている人たちが収穫物を大量に差し入れてくれるおかげで、今も野菜は買わずに済んでいます。

そしてビジネスパーソンにとってますます重要となるのが、3つめの創造です。定型業務が人工知能に置き換われば、人間に残された道は一つしかない。それはAIにできないクリエイティブな仕事をすることです。

では創造性を養うには何が必要か。私は「教養」だと考えています。そもそも、なぜ世の中のビジネスパーソンがお金を稼ぐことにこだわるかといえば、幸福はお金でしか買えないと思っているからです。

確かに都会には三つ星レストランや最新のエンターテインメントを提供する劇場やテーマパークがたくさんあり、お金さえ払えば楽しい時間を過ごせる。誰でも楽しめるように作られた場所なのだから当たり前です。

一方、私が住む所沢は、おしゃれなレストランもないし、エンタメといえばたまにイオンに無名の演歌歌手が来るくらいです。しかし、ここでの暮らしがつまらないなんて思ったことはありません。畑へ行けば無数の鳥や虫たちに出会えるし、空を見上げれば様々な形の雲が流れていく。それを楽しめるのは、鳥や虫、雲の名前を知っているからです。

上から目線に聞こえるかもしれませんが、教養があれば、お金をかけなくても自分なりの幸せや生きがいを見つけられるというのが私の実感です。

 

「1億総アーティスト」で誰もが人間らしく生きる

今の私には楽しみがたくさんあります。世間の人たちは私の仕事を経済アナリストだと思っているでしょうが、実は歌手もやっているし、小説も書くし、博物館も運営しています。

最近力を入れているのが寓話の創作で、目標は「打倒イソップ」(笑)。イソップが生涯で700ほどの寓話を書いたそうなので、それを超えるつもりです。寓話なんて頭の中で考えるだけだから1円もかからない。でもクリエイティブな仕事だから楽しくて仕方ありません。

私が思い描く未来像は「1億総農民」であり「1億総アーティスト」です。これは妄想ではなく、私が社会実験の末に実現可能だと実証しました。

だから、私から読者へのメッセージは「皆もやろうぜ!」。

お金を稼ぐためにくだらない仕事に人生を費やすのではなく、一人ひとりが教養を身につけ、創造的なアーティストとして人間らしい仕事に取り組み、自由に楽しく自己表現する。ぜひそんな人生を築いてほしいと思います。

 

著者紹介

森永卓郎(もりなが・たくろう)

経済アナリスト

1957年、東京都生まれ。1980年、東京大学経済学部卒業。経済企画庁総合計画局、三井情報開発㈱総合研究所、(株)UFJ総合研究所を経て、獨協大学経済学部教授。専門は労働経済学と計量経済学。堅苦しい経済学をわかりやすい語り口で説くことに定評があり、執筆活動のほかにテレビ・ラジオでも活躍中。

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発売日:2024年10月04日
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