
AI Mage㈱代表の張鑫社長は、生成AIを活用したIPビジネスの効率化が、日本文化の多様性を支えると主張する。かつて、将棋棋士を志していたという張社長の生い立ちも交え、語ってもらった。(取材・構成:川端隆人)
※本稿は、『THE21』2026年6月号の内容を一部抜粋・再編集したものです。
――アニメ業界で生成AIを活用するというと、アニメの映像をAIで生成するという発想になりがちだと思います。しかし、御社のAGI(Anime General Intelligence)はまったく違います。
【張】私たちのお客様になるのは、アニメの制作スタジオや、アニメのIP(知的財産)を保有し、グッズなどの商品化をする権利を持っている会社、例えばテレビ局などです。
IPビジネスにおいては、「キャラクターを正しく使えているか」を確認する「監修」と呼ばれる作業が不可欠です。しかし、これがワークフロー上のボトルネックになってしまいがちです。
例えば、グッズに描かれているキャラクターの髪の長さは設定と合っているか?髪の色はどうか?瞳のサイズは?手に持っている道具を他のキャラクターと混同していないか?こういうポーズはキャラクターのイメージを損ねないか?こういったチェックはグッズなどを作る際に必ず必要で、とても厳しい。1件につき100個ほどのチェックポイントがあることもよくあります。
そのチェックを誰がやるかといえば、その作品について何でも知っている、経験豊富なスタッフです。
監修のノウハウは、一部の担当者の中に属人化してしまっているのです。
そのため、監修担当者のキャパシティが逼迫していると新たな企画を受け入れられなかったり、人気のある作品なのに積極的な商品展開ができなかったりといった、機会損失が起きています。
今後も監修における最終的な判断は人間がすることになるでしょう。ただ、AIが事前にチェックすることで、人間の作業を効率化することが可能です。それが、当社のAGIのユースケースの一つ、「監修システム」です。
これに加えて、アニメの制作工程でイメージ共有をスムーズにする「参考図検索エンジン」や、二次利用に関心がある人を効率的に探し出してアプローチする「ライセンスプラットフォーム」というプロダクトも展開しています。
――まさに、作品を深く理解し、必要な情報を集めてくれる「アニメオタクなAI」というわけですね。2025年10月に「監修システム」のβ版がリリースされました。
【張】お客様と話しながら、より良いものを作っている段階です。監修業務は幅広く、ワークフローが多いので、全部に対応するのにはもう少し時間がかかりそうです。
属人化しているノウハウだけに、現場によってワークフローの違いもあり、それにも対応していく必要があります。
海外展開する場合だと、翻訳が正しいかどうかの監修も必要です。また、商品を発売する国の文化や宗教も考慮して、表現として問題ないのかなど、チェックする項目がさらに増えます。
――AGIによって、アニメビジネスの海外進出も加速されそうですね。
【張】海外も含めて、グッズなどのIPビジネスをより広く展開ができる見込みが立てば、制作できるアニメの数も増えると思います。
作品によりますが、1クール(3カ月)のテレビアニメを作るのに、だいたい4億円かかるとも言われます。それだけの投資が回収できる見込みが立たないと、そのアニメは制作できないわけです。
監修を効率化することでIPビジネスのロードマップが見えやすくなれば、従来なら「資金回収が難しそうだから」と見送られていたアニメの企画も通るようになる可能性があります。
――作品や表現の豊かさにもつながっていくわけですね。
【張】ご存じのように、生成AIの進化によって、アニメーション動画を作るだけなら誰にでもできるようになる時代が近づいてきています。だからこそ、これから価値を持つのは卓越したセンスであり、新しいものを作り出そうという姿勢です。
そうした価値を持っている作り手たちを支えるというのが、私たちのスタンスです。
――張CEOはもともと将棋棋士を目指していたとか?
【張】小学生1年生のとき、たまたま日本の文化を学ぶ機会があって、そこで将棋に触れたのがきっかけです。すごく面白くて、はまりました。
その後、日本の奨励会という制度を知って、海外在住の外国人として初めて入会試験に合格しました。そうして日本に来たのが14歳のときです。
AIとも、将棋を通じて出合いました。将棋AIのPonanzaがプロ棋士に勝つなどして注目を集めていたので興味を持ち、AI研究で有名な東大の松尾豊教授の研究室に入りました。
――アニメ業界で起業した経緯は?
【張】学生時代からアニメ制作スタジオと連携して共同研究をしていて、本当に大変な現場だということがわかりました。そこで、アニメ業界でAIが正しく使われる方法を見つけて、現場に貢献したいという思いがありました。
そもそも、アニメが好きだったこともあります。僕の周りの留学生にはアニメが好きで日本に来ている人も多いです。
――アニメの可能性について、海外からの視点だからこそ気づく部分もありそうですね。
【張】アニメは日本の中でも一番大事な産業の一つだと思います。
例えば、海外でアニメの海賊版が横行していたり、あるいは、アニメのグッズの買い占めや転売が問題になったりといったニュースを、皆さんもご覧になっていると思います。これは、アニメという産業のマーケットのポテンシャルがまだまだあるということでもあると思います。IPを持っている権利者にきちんとお金が還元されるようになれば、アニメ業界にも、日本経済にも、好影響を与えるはずです。
また、生成AIの進歩はIPの価値をもっと大きくするはずです。わかりやすい例を挙げると、キャラクターが動く、キャラクターと会話ができるといったタイプのグッズは、技術の発展でより増えていくでしょう。つまり、コンテンツを楽しむ方法自体が技術の進歩で発展するわけです。
日本でIPを持っている企業が、その市場を本気で取りに行くとなったとき、当社は、技術を携えて伴走できる存在でありたいですね。
――最後に、今後の展望を教えてください。
【張】直近の5年では、日本のアニメ業界が正しくAIを使って、保有するIPの価値を最大化しようとするとき、まず思い浮かぶのが当社であるようになることを目指しています。
日本だけでなく、グローバルからAIのトップレベルの研究者を集めているのも、「あそこなら間違いない」という会社にしていきたいからです。
50年後、100年後の展望となると、当社のビジョンともつながってきますが、アニメ、物語を通じて、夢を世界中に届けたいです。
子どもたちに希望を届けるという意味で、アニメは優れたメディアです。
世界には、貧しい地域もあれば、戦争をしている地域もあります。そこに住む子どもたちがアニメを観て、グッズを手にすることを通じて未来に希望を感じる。そういうことは現実に起きています。
アニメにはそういう力がある。そのインパクトを、世界に届ける手助けができたらいいなと思っています。
更新:05月04日 00:05