
日本トップクラスの野球系インフルエンサーにして、新刊『野球ビジネス』が発売されたトクサンTV。多くの世界的プレイヤーが在籍し、日本にはない多くの特徴を持つメジャーリーグの進化の歴史を解説してもらった。
※本稿は、トクサンTV著『野球ビジネス』(クロスメディア・パブリッシング)より一部抜粋・編集したものです。
MLBでは、2023年に大きなルール改正を行いました。①ピッチクロック(投球間隔を走者なしの場合は15秒以内、走者ありの場合は20秒以内に短縮)②けん制球の制限(投手のけん制は3度まで)③極端な守備シフトの禁止(塁間に内野手を3人置くなどの守備陣形は禁止)④ベース拡大(15インチ=約38.1センチ四方から18インチ=約45.7センチ四方に拡大)が主なところです。
①ピッチクロックは、ケースバイケースでいいのではと思います。野球は試合時間が長いがために途中で飽きられ、ファンが減っていくというデータがあったから導入し、実際にスピード化されて試合自体がエキサイティングになったメリットがある。
日本のプロ野球も取り入れるべきだとは思いますが、それは選手ファーストではなく、野球ファンを拡大していくためであり、スポーツエンターテインメントとしての視点で必要です。一方で、「日本の野球」という文化は、間や静寂をとても重んじる。まさに武士の考え方ですよね。斬り合う前、居合を始める直前の「間」自体も、息をのんで見つめるもの。言い換えれば楽しむものであるという捉え方をします。
その観点から考えると、1試合につきピッチクロック解除を3度まで使える、という感じで日本独自のルールとしてやるのはどうでしょうか。全部が全部、アメリカの言う通り、受け売りではなくてもいい。日本の文化ではこれこれこうだから、ときちんと理由が明確にあったうえで決める。
たとえば、7回や8回の緊張感がある場面になったとき、バッテリーなのか監督なのかはわからないですが、ピッチクロック解除を審判に申告。その打者に対してはじっくり時間をかけて1対1の空間で勝負する――見ているほうも手に汗握りますよね。
ただし、データの進化はやはりアメリカは一歩も二歩もリードしています。2025年1月に、元北海道日本ハムファイターズの加藤豪将さんを北海道で取材しました。加藤さんがトロント・ブルージェイズに就職が決まったタイミングだったので、どんな仕事をするのかを聞きました。
選手とデータをつなげる役割だというんですね。選手たちはパフォーマンスを発揮して、そのデータもいろいろ確認している。一方、アナリストはデータをたくさん蓄積して情報は持っている。でも、選手とアナリスト部隊の間に必要な「データを基に選手の能力を発揮させる人」が不在ということで、加藤さんはそのポストに入ることになったのだと。
選手たちには、データを基にどんな練習やトレーニング、休養をすればその選手のパフォーマンスが上がっていくかを事細かく説明する。逆に、アナリスト部隊には選手たちの感覚みたいなものを伝える。いわば中間管理職みたいな仕事をするという話を聞いて、めちゃめちゃ面白いと思いました。
メジャーにも、まだそんなにいないそうなので、おそらく日本のプロ野球球団には存在していない役割かもしれません。すごく重要な役割ですよね。
2025年のワールドシリーズに進出するあたりを見ると、加藤さんの仕事の効果が遺憾なく発揮されたのでしょう。メジャーリーグは「パワー!」「スピード!」「データ!」というイメージですが、足りていなかった繊細な部分を埋めにかかるところはさすがメジャーリーグ、アメリカのビジネス社会という感じがします。
これも、スポーツエンターテインメントの内部を支える必要な役職ですし、すぐにお金を使って、スペシャリストを集めて舞台をつくっちゃう。トロント・ブルージェイズはそれがハマったのだろうなと思いました。
それこそア・リーグ優勝決定シリーズのシアトル・マリナーズとの壮絶な戦い。王手をかけられながらも引っくり返す、という勝負強さを発揮できた理由にも、そういったことがあったのでしょうね。あれだけ猛打を爆発させていたシアトル・マリナーズがトロント・ブルージェイズによって止められた。
きっと、細部を詰めていった結果、「こうなったときには勝てる」という戦い方が見えていたのかもしれません。本当に強かったですから。
グラウンド外のところでは、MLBは変革を起こせる環境があります。5項の「スポーツビジネス 日米の違い」でも触れましたが、MLBには球団のオーナーになりたい富裕層が山ほどいる一方で、日本では球団を保有することが敬遠されてしまう。そこに、変革が起こせなくなる要因が表れていると思います。
日本のプロ野球には日本のプロ野球の良さも当然あります。前述の通り全て手本にする必要はないと思います。ただ独自色が強すぎることは否めません。日本プロ野球が消滅することはないにしても球団が減ってしまうことは可能性としてゼロではありません。そのためにもオーナー、球団運営に携わる人たちの「野球を面白くさせるんだ!」という熱意は根底に持ってほしいところです。
更新:04月26日 00:05