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2028年にデイトレーダーが消える? AIが株式市場を凍らせる未来とは

2026年03月23日 公開

鈴木貴博(経済評論家、経営戦略コンサルタント)

THE21 鈴木氏

本連載では、未来予測の専門家(フューチャリスト)である鈴木貴博氏に、5回にわたってこれから起こりうる未来について、様々な切り口から読み解いてもらう。今回は、生成AIが「投資対象」ではなく「投資家」として参入した時、市場にどのような変化が生まれるのかを予測する。

※本稿は、全5回の短期集中連載「2040年の経済学」の第2回です。
『THE21』2026年4月号の内容を一部抜粋・再編集してお届けします。

 

生成AIは株式投資に利用できるか?

新NISAが誕生して、本格的に投資に目覚めた日本人が増えています。その投資先の大半は、オルカンやS&P500といった世界の株式インデックスへの投資です。ここ数年のAI関連株の急伸で、新NISA以降に投資を始めた人の多くは、かなり儲かっているはずです。

それにしても、株式投資を人間が行なうのとAIが行なうのとでは、どちらが運用成績が良くなるでしょうか。

実はここにはタイムラグが存在します。2026年現時点でまだ生成AIは株式投資に向いていません。理由は推論能力がまだ低いからです。

「教えてAI‼東証グロース市場で今年大化けする会社はどこ?」と訊いてみると、今現在のAIの性能がまだ低いことがわかります。どのAIも、投資家やアナリストの間で評判の銘柄を検索してまとめてくれるだけ。つまり、誰かがネット上で推薦した銘柄しか出てきません。

しかしこの先、AIの推論機能が実用レベルに達すると、投資の世界が変わります。

例えば、今から2~3年後のAIに、「商船三井のこの先3年間の四半期業績を予測して」と尋ねた場合、まず商船三井の数年分の決算資料を読み込んで、商船三井のビジネスモデルと収益のカギを把握します。

さらに、世界各国の貿易統計を読み込んで輸入輸出がそれぞれどのような品目で増加しているのか、グローバル海運市場の動向を把握します。また、ビッグデータとしては、世界中の船舶の運航状況データから稼働率や効率性も把握するでしょう。

少なくともまだ発表されていない次の四半期の決算は、人間よりもAIのほうが正確に予測を推論してくるはずです。

加えて、未来の業績を取り巻く不確定要素、例えば燃料価格が高騰するか、地政学リスクで二国間の貿易が冷えるのはどの国か、貿易需要が急激に増えるのはどのような商材か、といった需要予測もきちんと押さえます。大型船舶の建造スケジュールの把握も完璧です。

こういった、人間のアナリストでは手が回らない膨大な情報を推論処理できるようになったAIが、仮に商船三井のこれから3年間の財務諸表を予測するようになれば、それはかなりのレベルで確からしい推論予測になるはずです。

 

AIの正確な予測でデイトレーダーは消える?

そのときの問題は株価です。株価は、投資家が想定するこの先の業績予想を織り込んで決まっています。

仮にAIが正確に業績を予測できるとしたら株価はどうなるでしょうか?株式理論的に言えば、市場での株価は瞬時にAI予測を織り込みます。実はこのことから、2~3年後には全世界の株式市場の特性が変わることが予測できます。2028年頃からは、株式市場の株価予測はかなり正しくなるのです。

もちろん、日々飛び込んでくるサプライズなニュースに株式市場が翻弄されるのは、今と同じです。「FRBの金利が突然......」とか「アメリカ大統領は方針を完全に変更して......」みたいなニュースが飛び込むたびに、AIは人間よりも先にそのニュースの株価への影響を正確に織り込みます。

この変化で最初に打撃を受けるのはおそらくデイトレーダーでしょう。株価が人間心理で上下にぶれまくる現象が存在することで、デイトレーダーは収益を上げています。悪いニュースがあれば人間は動揺し、株価は必要以上に下落して、やがて下げすぎたことに気づいて少し戻します。

デイトレーダーはこの人間心理のパターンを利用して、信用取引でレバレッジをかけることでわずかな上下幅を利益に変えます。この人間心理の要素がAI推論の時代には消滅します。

とはいえ、完全に消えるまでには数年の時間がかかるでしょう。デイトレーダーという仕事は2028年頃から徐々に斜陽になって、2030年代前半に完全に時代遅れになるぐらいの時間軸で消えていきます。

次に影響を受けるのは、バリュー株投資戦略を得意とする投資家です。株式投資の世界には、大きくグロース株投資戦略とバリュー株投資戦略があります。前者は、これから成長しそうな銘柄についての選択眼を武器に、投資する株式を選定します。

一方で、後者のバリュー株投資は、市場で割安になっている株を発見して、その株価が見直される可能性に投資をする戦略です。

ところがAIの推論能力が確立されてくると、この「市場で割安に放置されている株」を見抜くことについては人間よりもAIが得意になります。

結果として、2028年あたりからAIを用いてバリュー投資をする戦略が流行するでしょう。しかしそれは、時代の移行期だけの現象です。

やがてAIが割安な株を発見し尽くしてしまった後は、株価は適正な価格近辺で安定します。2030年代には、大きく株価が上昇するのは、主に市場の想定を上回るサプライズな業績成長を達成する銘柄だけに絞られてしまうでしょう。

 

「債券は安全資産、株式はリスク資産」の嘘

さて、AI時代には、投資の世界にはもっと大きな変動が起きることが予測できます。

象徴的な話をします。アメリカのS&P500の予想PERは直近で22倍です。

PER(株価収益率)とは、企業の利益が株価の何年分なのかを示す指標です。簡単に言い換えるとアメリカ株全体は、この先の22年分の利益を織り込んだ価格になっているのです。

でもお気づきですよね。22年後といえば2048年です。AIが発達して人類の知能を超越すると予想されるシンギュラリティ、つまり特異点の年が2045年ですから、今の株価は特異点よりも後の価値まで織り込んでいる。これは論理矛盾です。

AIはこういった、人間がいったん考えることを放棄している投資の根本的な前提を疑い始めるでしょう。

私には2028年頃、推論能力が実用化レベルに引き上がるタイミングになったら、AIに訊いてみたい質問があります。それは、「教えてAI‼債券はもはやリスク資産なの?」という質問です。

皆さんもご存じの通り、大学の経済学の教科書には、債券は安全資産だと書かれています。これに対して株式はリスク資産だと定義されます。「投資家は、この安全資産とリスク資産をうまく組み合わせたポートフォリオを作って投資をするのが定石だ」と教科書は教えます。

それで多くの日本人は、ファイナンシャルプランナーのアドバイスに沿って、一定の資産は株式の投資信託に、一定の資産は債券に、また一定の資産を不動産のREITに、といったかたちでリスク分散して投資をするのが常識です。

「THE21」鈴木氏

 

債券を資産に加えると投資パフォーマンスは悪化?

しかし、このやり方で長年投資をしている方はおそらく気づいていると思います。

「なんだか債券投資の部分だけ損益がマイナスだよな」と。

日本の債券のインデックスに投資する投信の成績を見てみると、過去5年間の年平均リターンは▲2.87%です。

このような運用益のマイナスが5年間続くと、さすがに資産への被害はかなり甚大で、5年間で財産が14%も減ったことになります。

それで定石に疑問を持ちます。「本当に債券は安全資産なのですか?」と。

実は過去30年間で経済学の金融リスクについての理論は研究が進み、進化しています。

一番進んだのが株式投資の理論で、S&P500のようなインデックスに投資をすると、長期的にはリスクに対する投資パフォーマンスが一番いいことが理論的に解明されています。

そこでわかってきたことを推論すると、たぶん債券を資産に加えるほうが現代投資理論では投資パフォーマンスが悪くなるようなのです。

まだ教科書がアップデートされていないのですが、私はAIの推論能力に訊いてみたいのです。

「最新理論から推論すると、債券は資産に組み込まないのが正しいですよね?」と。

債券という歴史の長い金融商品には大きな欠陥があります。株式と違って価値が増加しないのです。ですから低金利の時期に発売された債券は投資対象としては最悪で、長期間持っていてもわずかな金利しかもらえないうえに、金利が上昇するたびに価値が下落します。

仮に債券が、現代理論ではリスク資産に分類されるとされた場合、国や企業が債券で資金調達をするのが難しくなります。

しかし心配はいりません。AIが今よりもはるかに賢くなる時代には、おそらく債券に代わる新しい金融商品をAIが発明してくれるようになるでしょう。

政府の場合は、国債の代わりに例えば元本と表面金利を保証したうえで、経済が成長して税収が増えたら配当が増えるような商品が生まれるかもしれません。そうなれば債券が構造上生んでしまうリスクが改善されます。

 

株式投資でも資産が増えない時代に

ただ一方で、投資家としては大きな心配が生まれるかもしれません。

長期にわたってAIが経済の未来を正しく推論予測して、株価がそれを完全に織り込んでしまう時代がくると、その後の株価は、市場全体ではこれまでのような高い利回りでは上昇しなくなるのではないでしょうか。

極端な予測として2030年代には、上場株式に投資をする意味が、現在の配当利回り程度に下がってしまうとしたら?

なにしろ比較的蓋然性が高い成長余地についてはAIの業績予測に織り込み済みになるのです。結果的に未来の株式市場では、これまでの歴史のように、インデックス投資をしているだけで年間10%前後の利回りが見込めることはなくなります。

私たちがこれまで低金利で銀行に預けていてもまったく資産が増えなかった30年を経験したように、これからの人類は長期にわたって投資利回りが低い世界を経験することになるかもしれないという予測です。

おそらく、その例外がベンチャー投資です。会社自体がこれからどうなるのか、AIに推論させても判断が分かれるようなリスクのある銘柄では、投資の期待リターンは市場平均よりも当然高くなります。

しかしこの分野は上場株式投資以上に障壁が高い世界です。

現実に今、ユニコーンやデカコーンと呼ばれる「未上場ながら時価総額がトヨタや三菱UFJクラスになっている有望なベンチャー企業」が出現していますが、その世界は世界的な投資家たちにがっちりと囲い込まれています。

私たちが仮に、「オープンAIに投資したい」と考えても、そのチャンスはやってきません。投資のチャンスがもらえるのは、エヌビディアのファンCEOやソフトバンクグループの孫正義CEOといった著名な投資家だけで、一般の投資家にはデカコーン企業に投資できる機会は閉ざされています。

そして、いつか私たちがオープンAIに投資できる日が来るとしたら、そのときのオープンAIの株価は、AIの推論能力によって、かなり高い価格へ張りついてしまった後になるでしょう。

今から数年後には、AIが投資の前提を大きく変えてしまうのは確実だと考えます。損失が出る確率が大きく減るのは投資家にとって嬉しい未来です。

一方で、AIが正確に未来を予測することによって、株式市場には「冷えて均衡する未来」が訪れるとしたら、それは少し悲しい未来ですね。

「THE21」鈴木氏

プロフィール

鈴木貴博(すずき・たかひろ)

経済評論家、経営戦略コンサルタント

1986年、東京大学工学部卒業。ボストン コンサルティング グループにて数々の戦略立案プロジェクトに従事。2003年に独立し、百年コンサルティングを創業。著書に、累計20万部を超える「戦略思考トレーニング」シリーズ(日経文庫)や『日本経済 予言の書』(PHPビジネス新書)などがある。

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