2024年12月20日 公開
2024年12月20日 更新

「伝えたいことが一発で伝わらない」「どうしても緊張してしまう」など、コミュニケーションにまつわる悩みを抱えるビジネスパーソンは多いもの。だが、インタビュー経験豊富なライターのいしかわゆき氏は、そんな 「口下手」な人でも、聞く・書くといった習慣をつけるだけで、格段に人づきあいの難易度は下がると語る。
※本稿は、『THE21』2024年1月号より、内容を一部抜粋・再編集したものです。
いきなり自分語りで恐縮ですが、もともと私は人とかかわるのがものすごく苦手です。飲み会やパーティーでは隅っこのほうでチビチビとお酒を舐め、誰とでも楽しく話せるような人を「いいな」と指をくわえて見ている、いわば「口下手さん」側の人間でした。
そんな私が、人並みにコミュニケーションが取れるようになったのは、インタビューライターとして、「聞く習慣」と「書く習慣」を身につけてから。「面白い話ができなくても、笑いが取れなくても構わない。私たちはただ聞いて、書いていればいいんだ」と気づきました。
そんな「聞く習慣」の最大のメリットは、「『聞く』だけで人に好かれていく」ことです。
世の中には、知能指数を指すIQと並んで、心の知能指数を指す「EQ」というものがあります。思わず好感を持ってしまう人、一緒にいると何だか心地いい人、EQが高い人にはそんな特徴があるようです。
私は、EQは「聞く力」を鍛えれば上がるのではないか、という仮説を持っています。というのも、以前とある経営者の方に取材をさせていただいたとき、私は相手の話を聞いていただけにもかかわらず、「あなたはEQが高いね」と言っていただけたことがあったから。他にも似た経験が何度かあります。
少し話をしただけで、「この人はEQが高い」と判断されたのだとすれば、その判断材料は、「人の話を聞く姿勢」なのではないかと思っています。
「聞く」の第一歩としては、「人から情報を引き出す」ことをクセづけるのがお勧めです。今はインターネットで何でも調べて自己解決できる時代ではありますが、だからこそ、あえて「誰かに聞く」きっかけを作ってみましょう。
私は何か悩みがあると、「相談に乗ってもらえませんか」「○○さんに聞いてほしいことがあって......」と、悩みを口実にサシで話す約束を取りつけるのが習慣になっています。
仕事で行き詰まったとき、恋愛で悩んだとき、お勧めの漫画が知りたいとき。何か疑問や悩みが生まれたら、それは誰かに話を聞くチャンスだと捉えてください。
もしどう捻り出しても相談事項がない場合は、「うちの弟が転職活動で行き詰まっていて」「友人がイベントのできる場所を探していて」など、第三者の相談ごとを持っていくのもアリです。私は日頃から悩みごとや知りた いことなどをメモにストックしています。
特に、口下手な方の場合、大人数になればなるほど話すタイミングがつかめなかったり、注目を浴びて緊張してしまったりして、より話すのが下手になっていくもの。まずは「1対1」での会話を繰り返していくのがベストです。
いざ相手と会話をする際も、コミュニケーションが苦手な人の場合、いきなり会話を始めると緊張でうまくしゃべれなくなってしまうもの。まずは相手の情報を頭に入れておくのがお勧めです。
今はSNSをやっている人も多いので、FacebookやX(旧Twitter)などから情報を得ることもできますし、周囲の人にヒアリングをするのでも構いません。「この人はどんな人で、何が好きなんだろう?」というのを事前に押さえておくことで、対面時のコミュニケーションを円滑に進めることができます。
さらに、インタビューライターのように「質問リスト」を作ることができたらベスト。スマートフォンのメモなどでもいいので、聞きたいことを書き出して、相手に会う直前まで眺めておきましょう。
話している最中に聞きたいことを思い出せなくなってしまったら、「実は今日、○○さんに聞きたいことがあって......」と言いながら、さりげなくメモを取り出してもいいと思います。ゼロから質問を作り出そうとするのではなく、すでにある情報をベースに話を広げていきましょう。
よく誤解されているのが「聞き上手」な人が「しゃべらない人」だと思われていること。ただフンフンと相手の話を聞いているのは、聞き上手というよりも単純にしゃべらないだけの人です。
私が思う聞き上手な人は、適切な相づちと質問を繰り出しながら、相手からうまく話を引き出せる人のこと。要するに、相手をよく観察し、相手のことを考えられる人なんです。
私は、「聞き上手」になれない人には、「他人に興味がない」人が多いのではないかと思っています。興味がないから、その人に聞きたいことが思い浮かばない。知りたいと思わないから、会話も弾まない。
そんな方にぜひチャレンジしていただきたいのが、架空の読者を想定し、インタビュアーになりきって質問をしてみることです。
例えば、仮に相手が「スイーツが好き」な人だったとします。ここで「素の自分」のままで会話をしようとすると、「別に自分はスイーツに興味がないからな......」で会話が終了してしまいますが、自分の主観を一度捨て、 「スイーツが好きな人」のために、この人から引き出せる情報はないかな、と考えてみるのです。
そうすると、「最近話題のスイーツってどんなものがあるんですか?」「都内でお勧めのスイーツが食べられるカフェってありますか?」などと、質問が思い浮かぶようになります。
もし、架空の人を想像するのが難しいのなら、知人や友人を思い浮かべるのもお勧めです。「自分は興味ないけど、スイーツ好きな友人がいたな」と思ったら、その人にシェアできるような情報を取りにいく気持ちで質間を作ってみましょう。
さて、実際に人の話を聞くときに大切なこと。それは、「聞く姿勢」です。どんなに相手が熱心に話してくれていたとしても、こちらがボンヤリと聞いていては、相手も話す気力が削がれていってしまいます。
良い聞き方のポイントは3つ。「興味がある風を演出すること」「テンションを合わせること」「相づちに感情を1.5倍乗せること」です。
まずは「前のめりになって、相手の目を見て頷く」だけでも、「あなたに興味がありますよ」というアピールになります。椅子にもたれていたり、目線が泳いでいると、「この人は話を聞いているのかな?」と相手を不安にさせてしまうので、まずは姿勢を整えてみましょう。
次に、相手の声のトーンや話すスピードを聞いて、そっくり真似するように合わせてみてください。落ち着いたトーンで話している相手に対し、早口でまくし立てるように話すと、「何だかこの人とは気が合わないな」と感じさせる要因となります。
そして最後に、相づちにきちんと感情を乗せること。自分の声を録音してみるとわかるのですが、意外と声に感情が乗らない人は多いものです。口では「すごい」と発しているけれど、声だけ聞くとそうでもないように聞こえることも。「1.5倍大きくリアクションする」と意識するぐらいでちょうどいいので、少し大袈裟に相づちを打ってみてください。
ここまでですでにお気づきかもしれませんが、「上手に聞く」ためには「相手を観察すること」が欠かせません。声色や表情などをよく見ながら、そっと相づちやリアクションを添わせていきましょう。
とはいえ、どんなに準備をしていっても、緊張してうまく聞けなかったり、思うように気持ちを伝えられなかったり、ということもありますよね。そんなときに役に立つのが「書く習慣」です。
「書く習慣」のメリットは、「口下手でもコミュニケーションが取れる」こと。ドラマや漫画などでも、自分の気持ちを伝えるためにラブレターを書く、といった場面がときどき登場するように、目の前の人に自分の気持ちや考えをストレートに、かつ正確に伝えるのは難しいことですよね。
ですが、そんなときも「書く習慣」が身についていれば、素直に自分の想いを伝え、自分のことを知ってもらうための強い武器を手に入れることができます。
今の時代、SNSやテキストメッセージだけで仕事を遂行することも可能です。たとえリアルでのコミュニケーション能力が低かったとしても、テキストコミュニケーション能力さえあれば生きていける時代だと言われています。普段は寡黙でも、そちらで「饒舌」な人になれたなら、「口下手」のままでも生きやすい人生を歩めるでしょう。
例えば、一緒に食事をした後などに「本日はありがとうございました」とお礼を送る人は多いですが、話をして学びになった点や、感じたことなどの感想までを添えてメッセージを送る人は稀有だと思います。ですが、相手とお別れをしてひと息ついたときにこそ、改めて込み上げてくる想いがあるのではないでしょうか。
文章を書いているとき、あなたはひとりです。目の前の人の顔色をうかがう必要もなく、瞬発的に言いたいことを考える必要もなく、ゆったりとした時間のなか、思う存分言葉を練ることができます。
たとえ会話がうまくいかなかったとしても、あとからメッセージを送って「会話の続き」をすることができれば、印象を上書きすることができます。「終わり良ければすべて良し」の言葉通り、最後は「書く」ことで会話を締めていきましょう。
また、会話の中で相手にお勧めしてもらったものがあるのなら、その「感想」も後日談として相手に伝えてあげると、好印象を抱かれやすいです。
「口下手さん」とひと言でいっても、その中には「話すのは下手だけど書くことはできる」タイプと、「話すのも書くのも苦手」なタイプがいるかと思います。
前者の場合であれば、メールやLINEなどでのテキストコミュニケーションでどうとでもなりますが、後者の場合は、そもそも「自分の考えていることや想いを言葉にする習慣がない」可能性があります。
「思っていることは、口にしないほうがいい」のが美徳とされている日本の人々は、つい気持ちを押し殺してしまいがち。そこで、自分の考えていることを言語化する練習をするために、感情が動いたらメモに書くクセをつけていきましょう。「これでもか!」と思うほど出してみて、目の前にあるものがあなたの「本音」です。
人づきあいに限らず、本を読んだりドラマを観たりした際にもこの練習を重ねていくことで、スルスルと言葉が出てくるようになります。
私はスマートフォンのトップページの右端、ちょうど親指1本で開けるところにメモアプリを設置し、何かあったらすぐにメモが取れるようにしています。X(旧Twitter)などにアウトプットするのもお勧めです。小さな習慣で、「書く力」を磨いていきましょう。
【いしかわゆき】
早稲田大学文化構想学部を卒業後、Webメディア「新R25」編集部を経て、2019年にライターとして独立。 ADHDとHSPを抱えながら、「生きづらい世界をいい感じに泳ぐ」ための発信を続けている。「書く+α」のスキルを学ぶスクール「Marble」も運営。主な著書に「書く習慣 自分と人生が変わるいちばん大切な文章力』(クロスメディア・パブリッシング)などがある。
更新:12月22日 00:05