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なぜ4回の破産危機を乗り越えられたのか?ヨシダソース創業者が語る人儲けの極意

吉田潤喜(ヨシダグループ会長兼CEO)

吉田潤喜氏「THE21」

自家製秘伝のタレをベースにしたヨシダソースを米国で大ヒットさせ、「世界で最も尊敬される日本人100」への選出歴もある吉田潤喜氏。金儲けより「人儲け」を重要視しているという吉田氏に、顧客や従業員の心をつかむマネジメント論を聞いた。(取材・構成:川端隆人、写真撮影:江藤大作)

※本稿は、『THE21』2026年3月号[私の体験的リーダー論]より、内容を一部抜粋・再編集したものです。

 

金儲けより人儲け4回の破産危機を救った周囲の人々

――ヨシダグループの事業をお孫さんが引き継ぐことになったとのこと。将来の後継者に、どんなことを伝えようとなさっていますか?

【吉田】「人儲け」です。金儲けではなく。「人儲けしたら金がついてくる。金儲けを目指すと、金も逃げるし、金についてくる人間もいつかはお前から離れる」とね。

もちろん、ビジネスに対するパッションはないとダメなんですよ。でも、僕はヨシダソースを作って売っていて、利益計算をしたことはない。何本作ったか、何本売れたか、それだけ。

いまだにコストコに行って、お客さんがヨシダソースを1本手に取ってくれただけで、もう抱きしめたくなる(笑)。たった1本でも、買ってくれたことに感動するの。

――お金を追わず、「人儲け」を目指すというのは、なかなかたどり着くのが難しい境地だと思います。

【吉田】簡単やん。人の心をつかむということ。「あの吉田さんがそう言ってたんか。なら大丈夫」と信頼されるということ。これが最高の人儲けの証。だから、僕は4回も破産しかけたけれど、そのたびに周りの人が助けてくれた。

――どうすれば信頼されますか?

【吉田】自分だったらどんな人を信頼するかを考えてみたらいい。僕は人を見るとき、まず、その人が思いやりのある態度をしているかどうかを見る。来客があって、うちの秘書がコーヒーをお出ししても、「ありがとう」も言わない人もいますよ。「ありがとう」「美味しいです」と言える人、それは思いやりと気遣いなんや。思いやりのある人の話は聞かないかんと思う。それがまず、第一歩。

別の言い方をすると、思いやりというのは、「自分がされたら嫌なことをやってはいかん」ということ。経営者でも、社員に向かって「俺がお前らを食わせてる」と言ったり、「会社のために家庭は犠牲にしろ」と命令したりするのがいるでしょ。最近はそうでもないようだけれども、昔の日本では当たり前だった。

社長だから、部長だから、自分が言われたら嫌なことを平気で部下に言う。それでは人はついてこないですよ。

 

空手道場で学んだマネジメントの真髄

――リーダー論に話が及んできました。会長は、異国の地で起業して、人を雇って働いてもらうということで苦労はされましたか?

【吉田】うちの会社では、42年前から働いている社員が1人、38年前からのが4人、まだ働いてるんです。彼らと一緒に、ドラム缶の大きさの鍋でソースを煮て、一緒に仕事をしてきました。今から考えると、僕のマネジメントの秘密は、空手道、武道なんだよね。

――ヨシダソースを起業される前から、空手の指導員をされていたんですよね。

【吉田】そう。僕にとっては空手道がビジネスのバイブルなの。

アメリカに渡って、最初は空手で食っていた。これがなかなか微妙な商売でね。だって、生徒をどついて、蹴って、何かというと厳しく叱って、「腕立て10回!」って命令して、道場掃除までさせて。そのくせ毎月、月謝を持ってこさすわけやん。ヤクザみたいな世界ですよ(笑)。でも、僕は当時から、空手道場の生徒をお客さんだと思ってきた。結局、そこで学んだんや。組織づくりと人間関係を。

――お客さんをどつくどころか、最近は部下を叱ることさえ難しいと悩んでいる管理職は多いです。

【吉田】僕の場合も、異文化のアメリカ人を教えるわけだから難しさもあった。そこで、どうやったら生徒がやめないか。飴と鞭で人の和を自然に学んだんやな。

昔は武道でもスポーツでも、「しごき」が当たり前。でも、当てられて痛かったら、同じことを人にしてはいけない。指導に厳しさがあるとしても、ほどほどにしておく。痛みを知っている人間は、相手の痛みもわかるわけよ。それが武士道であり、ビジネスなの。

例えば、「腕立て100回」と命じる、それも夏の暑い日に水も飲ませず......というのは論外。強くなるわけがない。僕の指導は「腕立て10回」と命令するんです。10回なら誰でもできるし、できたら本人の自信になる。相手のことを思って加減をしているのが伝わると、表面的にはきつくて厳しい指導をしているようでも、ちゃんと人がついてきてくれる。

だからうちの道場には、55年前からの生徒がいまだにいますよ。シアトルのボーイング社では工場ごとにうちの道場の支部があって、何人もボーイング社の幹部を輩出してます。

リーダーが部下に接するときも同じ。厳しい中にも思いやりが大事。会議で、みんなが見ている前で部下を「バカ」とか「辞めてしまえ」なんていう社長もいる。それでは人はついてこない。僕はどうしても部下を叱らなければいけないときは、会社の中にカラオケができる部屋を作っておいてね。そこへ連れて行って、2人でビールを飲みながら叱りましたよ。

 

「さみしい」「愛されたい」弱さを見せられる強さ

――道場で学んだ人との関係づくりが、経営に活きたわけですね。

【吉田】自慢じゃないけど、僕、人との関係を続けるのがすごくうまいんです。なんでかと言うと、さみしがりだからというのもあるかな。捨てられたくないねん。さみしがりやからこそ、こんな人間になったのかな。「さみしい、俺を見捨てないでくれ」と部下に正直に言える。それが強みなのかもしれない。自分の弱さを知っているということは強みですよ。

それと、愛されたいね。「吉田会長は切れ者だ」とか「タフな経営者だ」とか言われるより、「潤喜ちゃんかわいいね」と言われるのが一番嬉しい。嬉しくてつい、六本木のお店でお金出してしまうんやけど(笑)。

――愛されるリーダーになれば、優秀な人材がついてくるわけですね。

【吉田】そうです。だから、僕の周りにはいつも優秀な「右腕」が何人もいた。あなたの周りには「右腕」になってくれる人がいますか?自分の能力よりも、優秀な右腕がいるかどうかであなたの人生は決まるんや。親分はバカでええねん。アイデアを持ってきて、優秀な部下に投げたらええねん。「ちょっとやっといてくれや」と。

2020年のパンデミックのときには、プラスチックの原料不足などを理由に容器の値段を上げられて、困ったことがありました。

そこで、「自社で容器を作ったらどうだろう?」というアイデアが湧いてきて、それを「右腕」の部下に投げた。「これからうちでプラスチック作るで」と。部下たちは1年かかって準備してくれましたよ。完全に任せきりです。それでええねん。「信頼されてる」「任されてる」と部下は思ってくれる。

――任せるのが苦手な管理職も多いです。

【吉田】任せると言いつつ、口出ししたり、「書類を出せ」とか「報告上げろ」とかがダメなの。日本にはそういう部長はいっぱいおんねん。

仕事を投げられたうえに、常時チェックされて、報告ばっかりさせられて。それで人間、燃えるわけがない。「部長に信頼されてる」「社長に任された」と思ったら、燃えるでしょう。だから、仕事を投げるなら任せなさい。それが本当のボス。色んな経営者を見ていても、会社を大きくする社長は全部任せてますよ。

僕も徹底的に任せてきたから。過去に20社以上の会社を作ったけれど、それぞれを担当する部下から細かい報告をもらうのが嫌なの。邪魔くさい。僕の責任は資金を持ってくること、部下を褒めること、そして人を集めること。あとは任せる。

 

「成功」を追うな仕事に恋し続けろ

――お孫さんにも、そんなリーダーに育ってほしいですか。

【吉田】僕が何を望んでいるか、孫にも聞かれたんだけれども、「将来の希望はあらへん」と言いました。「売りたかったら売れ、潰したかったら潰せ」と。ただ、一つだけ大事なこととして、「今まで一生懸命働いていた人間を絶対守れ」と。

僕の右腕はこれから最低15年は会社にいると思うから、僕がいなくなってもうちの孫を育ててくれるでしょう。あとは、もう金儲けで利益を上げることを考えなくていい。人をどうやってまとめていくかだけ考えろと。

ただ、その点は安心してるんです。孫を見ていると、周りにいい仲間がいっぱいいるんだ。それが素晴らしいと思うし、まだ19歳の孫をその点で尊敬してんねん。ヨシダグループはあと50年は大丈夫なんじゃないかと思う。

――日本のビジネスパーソンにも、ぜひメッセージをお願いします。

【吉田】僕は「成功」という言葉が嫌いなんです。なんでかというと、僕の親しい友だち、フィル・ナイト(ナイキの共同創業者)にしても、ジム・シネガル(コストコ元CEO)にしても、いまだに自分で車を運転して会社にくる。それは、「自分は成功者だ」なんていう気持ちになっていないから。

日本人はつい、運転手つきの車とか、プライベートジェットとかを「成功」と思ってしまいがちでしょ。 やっぱり、本当の成功ってそんなもんじゃないねん。自分の人生に満足しているかしていないか。だから永遠に戦って、永遠に自分の仕事に恋していればいい。僕も76歳で、いまだに商いに恋してまんねん。

吉田氏「THE21」

プロフィール

吉田潤喜(よしだ・じゅんき)

ヨシダグループ会長兼CEO

ヨシダソース創業者。1949年生まれ。1969年に単身渡米。自家製秘伝のタレをベースにしたヨシダソースを生産販売。2005年にNewsweek誌(日本版)「世界で最も尊敬される日本人100」に選ばれる。現在、オレゴン州州知事国際経済顧問、オレゴン経済開発委員会理事、プロビデンス病院財団理事、子どもガン協会理事など。著書に『でっかく、生きろ。』(きずな出版/望月俊孝氏との共著)など。

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